本会会員の古川哲也が執筆した記事が、食品と科学 2016年9月号に掲載されました。月刊 食品と科学様の許可を得て、公開しております。
冒頭紹介
鰹節HACCPを構築するに当たって
鰹節は日本の伝統食品であり、出汁の主要原材料として脚光を浴びるべき存在です。特にミラノ万博に日本産の鰹節を持ち込めなかったという点の反省からは大いに注力すべき分野と考えますが、私が知るなかでは政府や業界に特段の動きが見られていません。
私は2013年に水産加工の分野でFSSC22000を社内で構築・認証取得をし、食品安全チームリーダーとして様々な改善をしながら維持をしてきた経験があるため、今回執筆の機会をいただくことになりました。
鰹節という製品は、我々の製造する商品と同じ水産加工という分野であり、魚の解凍や一次処理での魚の取り扱いが適切でないとヒスタミン産生の危害が存在するところは似ています。そのことから鰹節に関する下記文献と、インターネットを活用して、試験的にHACCPを構築してみました。
HACCP構築をする中で浮かび上がった疑問点を解決するために、実際に荒節、枯節の製造工場を巡って現地で突き合わせ確認をして、より現実的なHACCPに仕上げていこうと考えています。それらを実施していく間に、読者諸氏のご高見を賜りたく考えています。
HACCP構築に当たっての前提条件
- FDAでは冷凍された魚を加工する場合のヒスタミン産生を防止するため4.4℃超21℃以下での最大累積時間を24時間までとしているが、4.4℃以下での最大累積時間の提示はない。そのため今回のHACCPでは管理限界を設定できず、唯一、最終製品でのヒスタミンレベルの確認をもって安全を担保し、間接的に工程が正常に温度管理されていることを証明することとした。
- 表面水分活性を以下の値で想定をした。
- 二番火 0.83
- 三番火 0.74
- 四番火 0.69
- 五番火 0.65
- 六番火 0.63
- 原料のカツオは巻き網で漁獲されたものである。
- ブライン急速凍結は、水に食品添加物グレードの塩化ナトリウムを溶かし、マイナス20℃まで冷やし込んだ溶液である。
- 使用水は市で管理された水道水を使用。インターネットなどで水の検査書が公開されているものとする。
- 薪、カツオブシカビ、包装資材は仕入先を限定し、安全性を証明できる仕様書の発行がいつでも可能な状態である。
- 原料保管冷凍庫は、停電があった場合でも扉を閉じることで24時間温度を維持できるのに十分な断熱構造を有するものである。
- 受水槽は年1回の業者による清掃が入る。受水槽の蓋は施錠管理している。清掃業者には建築物飲料水貯水槽作業者監督者資格、作業者の検便結果を清掃前に提出を義務付けている。清掃後は直ちに採水して建築物飲料水水質検査業登録業者による検査機関にて26項目検査を実施し、食品・添加物等の規格基準に適合している水であることが証明されている。
- 工場では毎日使用水の残留塩素測定、官能検査、目視検査を実施している。
- 薪は屋根付きの倉庫にて保管し、雨に濡れることはない。
- カツオブシカビは瓶に入って密封されたものであり、他のカビに汚染されることはない。
- カツオの解凍は期待した品温が得られるように、毎日決められた魚の量、解凍層、水の量で実施する。解凍は作業前日の夕方から翌日の朝まで、約15時間かけて1段階目がなされる。この時点での品温はおおよそマイナス5℃程度であり、槽内の水の入れ替えをしてさらに解凍を進めていく。
- エアレーションは冬場で解凍が進まない時にのみ使用する。モーターでファンを回し、パイプに空気を送り込む単純な設備である。駆動部からファンへの潤滑油の浸入はなく、ファン自体にも潤滑油を使用しないものである。
- 生切りに使用するまな板は、合成樹脂製器具の規格試験(厚生労働省)に適合したものを使用している。
- 包丁はMV鋼が欠損し難く、錆びにくい材質のものを使用。包丁の把手は樹脂製のものを使用し、それらの安全性を確認できる試験結果を入手している。
- ボイラー薬剤は食品添加物グレードのものを使用している。
- 煮熟、冷凍庫、冷蔵庫は機器に温度表示が付いており、モニタリングが容易な設備である。