レトルトでは 密封性の問題が 熱殺菌より重要なこともある

レトルトでは 密封性の問題が 熱殺菌より重要なこともある

一般社団法人 食品品質プロフェッショナルズ 代表理事 広田鉄磨

ガーナからの 熱殺菌に関するSOS

昔々 私がまだ40代だったころ ガーナに行く機会があった。今でもそうだろうが ネスレでは 専門家が派遣される場合 その費用は派遣を要請した国側が持つ。しかし ガーナが そんなにリッチな国であろうはずもなく エコノミークラスで行くことで双方合意。

当時住んでいたシンガポールから まずは 南アフリカに飛びヨハネスブルク 田舎路線への乗り換えを待つ間 空港内のマクドナルドのシートで真横になって固くなった背中を伸ばしながら居眠り、そこからガーナのテマへとまた長時間フライト。いつものビジネスクラスでビールに始まり ワインにウィスキーにコニャックと リラックスして飲みまくりのツアーとことなり 固いシートにちぢこまって座り続けたため テマの空港に降りたときには 足元もおぼつかないくらい疲れ果てていた。

要請は ガーナで製造しているエバミルクに耐熱性芽胞菌問題が出ていて 手に負えなくなっている、専門家の支援を求む という内容だった。エリックという ガーナのテマ工場の品質保証をやっている窓口の人間と情報収集開始、まだまだ Eメールに添付できるサイズのちいさかったころ 二週間かけて 何百ものメールを交換 なんとか文書で集められるものはすべて集めて レビューしてもさっぱりわからない。

文書ではらちが明かず現地へ飛ぶ

電話の向こうでも エリックが「さっぱりわからん」と首をかしげているのが見えるよう。これは 電話やメールではらちが明かんと 「そっちへ行こうか?」と投げかけると「ぜひ来てくれ、もう大問題になって製品の出荷のスケジュールにも影が差している」と すぐ合意。ネスレガーナの上層部まで話はすぐ届いたのだけれど 合意が出なかったのが 航空機のクラス。ビジネスクラスで来られると ガーナの年間の技術支援要請予算では収まらなくなる エコノミーなら何とかなる とのこと。そんなのいいや まずはいかないと・・・と飛び乗ったのがエコノミーというのが発端。

テマ空港についたのは もう日暮れ、ちゃんと迎えの車が来ている。その後部座席には ライフル抱えたガードマン。まるで護送される凶悪犯みたい。なんでと聞いてみたら ガイジン載せた車はよく狙われるんだそうな。途中 ニョキニョキと伸びる巨大なタケノコみたいなのをよく見る。聴けばアリの巣だそうな。ガーナでは有名な風景らしいが こっちゃ そんなこと知らんがな。ところ違えば見るものも違うとはこのことか。

ガーナの蚊にとっては久々の御馳走

テマのビジネスホテルに送り込まれる。一晩ゆっくり寝てくれ といわれて 食事もそこそこ ヘロヘロでベッドに。そして 夜は順調に更けていくとおもったら 22時くらいから すごい蚊の軍団に襲われる。ブンブンとうなるので電気をつけてみたら むき出しにした腕も足も蚊まみれ状態。電気つけっぱなしで 蚊をたたきながら朝を迎える。蚊をたたいた手は (おそらく自分の血で)真っ赤に染まる。

夏でもエアコンないのは アフリカではいつものこと。一部網戸の入った窓があるからこれで涼をとるのだろうと開けておいたのが 蚊にとってはもっけの幸い。久々の御馳走とばかり近所の蚊も誘ってやってきいたんだろう。そして 夜中の蚊との格闘中に気づいたが この網戸 破れていてほとんど何の役にも立たなかった。窓閉めたが その時は蚊の軍団がすでに部屋の中を占拠したのちだった。

まさに芽胞菌、しかしどこから?

テマの工場にいったがな・・・翌朝 充血した目をして。エリックと 芽胞菌で汚染された製品の性状チェック(この臭いも凝固もバチルスに間違いない!)、原因菌の耐熱性チェック結果(これはもう典型的なバチルス芽胞)、培地上に出てきたコロニーの性状チェック(これをバチルスといわず何をバチルスという!?)すべてクロ。しかし 原材料の芽胞菌数はほとんどゼロを継続中、レトルトの温度履歴もパッチリ。最初はエリックの腕が悪いのか と怪しんでいたが 目の前で検査の実演してもらっても慣れたもの。じゃあ 缶の巻締かシームラインか?と疑って 巻締検査担当のところに行って実演してもらっても これもプロ級。じゃあ なんなのよ? と ふてくされれる。毎夜 蚊との格闘をしながら 三日目になって 何度も回ったラインだが もう一回見てくるとエリックに告げて なんなのよ?なんなのよ?とつぶやきながら工場巡回。

えっ!冷却水!?

突然 工場の床に白く濁った温かな水が流れているのを発見・・・最初はラインの洗浄でもやっているのかと周囲を見渡してもそんな気配はない。エリックを捕まえて「今 白い温水が床を流れているけど、あれ何?」と問いかけると 「レトルトの冷却水がたまにオーバーフローするんだ」

という。ガーナでは水が貴重なんで 冷却水は徹底して循環使用しているが たまには 何かの拍子にあふれるんだとのこと。しかしまあ 循環使用にも限度がある。

「エリック サンプリング容器もってちょっと来てくれ」と連れ出して 床を流れている水と レトルト冷却水槽の水を採取してもらい 直ちに培養試験・・・でるわ でるわ バチルスのコロニー。元気いっぱいのバチルスで 培養にかかった時間も超!短時間。

「エリック 冷却水を全部捨てて 新鮮な水に交換してくれ。レトルトの缶製品ってのは レトルト直後では まだ巻締部分のラバーが安定していなくて わずかながら冷却水を吸い込むことってよくある話なんだ」と説明し終えたころには もう帰りの飛行機に向けて工場を出立すべき時刻が迫っていた。

シンガポールに戻って爆睡

シンガポールに戻ってから爆睡した。ここでは窓開けて寝ても蚊は数匹しか来ない。2~3週間たってエリックに電話したら「冷却水の交換後 まったく変敗が出なくなった。みんなで これはジャパニーズマジックか?と騒いでいるんだ」とありがたい報告。

縁あって二度目にガーナに行ったときには こっちも経験に学んで 蚊取り線香と殺虫スプレーをバッグに入れて持参 ベッドの下にスプレー振って 蚊取り線香を部屋の4か所で炊きながら熟睡。翌朝見たら 床には死んだ蚊のじゅうたんが出来上がっていた。工場にいったら エリックも上司もみなご機嫌 いつの間にか観光ツアーのようにあちこち連れまわってくれて ガーナといえば金とダイアモンド 娘二人に小さなカットダイアモンドを買う。エリックは その数年後 スイス本社にも勤務し、出世したと聞いている。めでたしめでたし。


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