アメリカの医療制度は、ピーナツを4200ドルで売る方法を見 つけ出した【和訳】

アメリカの医療制度は、ピーナツを4200ドルで売る方法を見 つけ出した【和訳】

The U.S. Health-Care System Found a Way to Make Peanuts Cost $4,200

アメリカの医療制度は、ピーナツを4200ドルで売る方法を見つけ出した。

A 51-foot (16m) peanut butter and jelly sandwich is cut up for eating on National Peanut Butter and Jelly Day in Escondido, California April 2, 2014. REUTERS/Mike Blake (UNITED STATES – Tags: SOCIETY HEALTH EDUCATION) – GM1EA430E3R01

ピーナツは 特別な危険性をもつ豆です。小さなかけらであっても ピーナツアレルギーの人なら殺すことさえできます。救命措置をおこなったとしても 脳に恒久的な損傷を与えることすらあるのです。このように重篤なアレルギーは比較的少数ですが どのような反応が起きるのかを予測するのは困難です。ある時には 間違ってピーナツのかけらを食べてしまったとしても わずかな痒みが出るだけかもしれませんが、次に食べたときには 気道がつまり あなたが呼吸をするためには 誰かがアドレナリンのたっぷりはいった注射針をあなたの脚に突き立てないといけないのです。

アメリカでは、毎年4人のピーナツアレルギーの子供が ピーナツに反応して亡くなっています。しかし、わずか4人であるからといって、最悪のケースが起きたらどうしようと恐れている(アレルギーを持つ)何百万の子供や その両親を安堵させるものではありません。結果として、学校のカフェテリアの多くで すでにピーナツは歓迎されるものではなくなっています。一部では 公共の場所ではピーナツを禁止すべきだとの主張をする人まで出てきています。ブルックリンで子供の誕生日パーティーにピーナツを持っていったとしたら 二度とどのパーティーにも呼んでもらえないでしょう。

子供がピーナツに触れることがない状況というのは しかし 却って予期しない結果を導きだしてしまっているようです。ピーナツアレルギーは増え続けているのです。最近の推定では アメリカでは2から5%の子供がピーナツアレルギーといわれています。アナフィラキシーショックを起こして緊急外来に運び込まれる数は 2008年から2012年の間で倍増しています。免疫システムがピーナツを許容することを学習していない場合には、最初にピーナツに出会った時に激しく反応する可能性が高くなります。そのため 最近のガイドラインでは 子供が小さいときに両親はピーナツを与えるべきと推奨しています。ピーナツアレルギーを生起してしまった子供たちには、似たような、しかし物議をかもしかねない治療法が、現在、食品医薬局によって承認されようとしています。食品医薬局は 本日 薬品会社とその立場を擁護する者たちよりの聴取を行っており、数か月後には最終決定を出してくるものとみられます。

ピーナツアレルギーに関しては現在 有効な治療法というものがありません。そのため患者はピーナツの摂取を避けるようにと宣告されるだけです。患者たちは 注射器に詰められたエピネフィリン(商標名:エピペン)を処方され、必要となればそれを注射するようにといわれるだけです。ここ数十年の科学と技術の大幅な進歩にもかかわらず、患者を抱える家庭には アレルギーが治療可能であるとか、少なくとも緩和できるといった安心につながるものは全くありませんでした。それも本日まで、新しい治療法では患者の免疫システムを・・・ピーナツを与えることで・・・再構築しようとしているのです。危険な響きがあるかもしれません、実際に危険です。

経口免疫緩和療法と呼ばれるものですが、患者にごく微量のピーナツを与えていくと 患者は徐々にピーナツを許容できるようになるのです。免疫緩和療法は 例えば花粉症の様なアレルギーに対しては一般的で、花粉などを注射し、ごく微量のアレルゲンたんぱく質を注射することで 免疫系がアレルゲンに慣れてきて、患者は呼吸時の苦痛から解放されていくというものです。

しかしながら ピーナツを使用しての経口免疫緩和療法はいまだ試験的な段階にあると考えられ、どの専門機関であっても 両親がアレルギー患者に対してピーナツを与えることを推奨していません。自己流の危なっかしい処方での治療が行われていることもありますが そういう治療行為を観察して 医師達の多くは危険であると感じています。死に至るような反応が出るといった可能性もあり、一部では 研究施設の外でこのような治療が行われるべきではない との思いを強く持っています。

1990年台末にピーナツアレルギーを その抽出物を注射することで治療しようとする試みがありました、ピーナツ液の注射です。しかし 医療試験の最中に患者の一人がアナフィラキシーショックで死亡したことから(ラベル間違いがその理由と報告されています)試験は中止され 医療現場には一時的ではありましたが この療法を実施することに対する恐怖心を植え付けました。2000年台にデューク大学で再度同じ方式が着目され、今度は経口的な投与が選択されました。彼らは概念実証研究を発表し、その中でアレルギーマウスが粉砕したピーナツの極微少量を与えることで、アレルギー症状が軽快することを示しました。

これを人間にも延伸してみることを強く願い、食品アレルギー界の重鎮たちが2011年にボストンに招かれ、構想を前に進めることになりました。食品アレルギー研究教育機関(FARE)(と呼ばれる非営利の提唱とロビーイングを行う団体であって、一部、薬品業界からの活動資金の提供を受けている)が、患者代表、デューク大学や多方面からの研究者、行政、産業界メンバーによる、垣根を越えた合宿会議を開催しました。このグループは 経口緩和治療研究を科学者が安全に進めていくためには どれくらいのピーナツが与えられたのかを正確に知ることのできる標準化された処方箋が必要だとの結論を導き出しています。

「問題点は この処方は薬品会社が通常生産しているようなクスリといったものではなかったことです」概念実証研究に参加したアレルギー専門医の一人、ブライアン・ビッキーは説明します。しかしながらもまた 食品そのものというわけでもなかったのです。「ライセンス生産に当たるものも全くない それは なんと 単なるピーナツの粉だったのです」

多くの薬品会社にアイデアを募ったあげく FARE自身が その後アイミューンと名前で知られることとなる会社を見つけ出しました。アイミューンはカテゴリー上は薬品会社ですが 食品を基材とした治療に傾注しています。このような製品は食品医薬局によって所轄され 医薬に分類されていますが、その中でも新規の成長分野であるバイオ医薬とされます。つまり、生命体に由来する医薬であり、例えば、細菌のたんぱく質からできたワクチン、人体で生成する生理活性物質でできたインシュリンです。アイミューンの場合では、バイオ医薬は、つまりカプセルに詰めたピーナツの粉ということになります。この会社は 1億6千万ドルのベンチャーキャピタルファンディングの公募をおこなったのち 2015年に上場しています。

2016年にビッキーは デューク大学を離れ 常勤でアイミューンに勤めることとなりました。そこで彼は、ピーナツ粉を使用しての治験を監督しています。約250名のピーナツアレルギー患者 2グループに ピーナツ錠またはプラセボを毎日投与し、一年間以上にわたってその影響をモニターしました。治験終了後に 患者たちには少量のピーナツが与えられ、徐々にその量があげられ、最後には2粒のピーナツまで増量されました。研究者たちは アレルギー反応を起こすまで どれくらいの量が必要かを観察したわけです。プラセボを与えていたほとんど全員の患者は 2粒に至る以前の段階で反応しましたが ピーナツ粉錠を投与されていた群では 3分の2が2粒を問題なく食べることができたのです。

ビッキーは、現在ではアトランタ州小児健康管理の食品アレルギー部門を統括していますが、昨年11月、ニューイングランド医薬ジャーナルで、その研究における知見を公開しています。共同研究者のもう一人はアイミューンのスタッフとしてとどまっています。研究者が医薬品メーカーから資金供与を受けることは稀ではありませんが 研究対象である製品を作っている会社の採用となることは頻繁には起きていません。

この単独の しかし 一年にわたる治験の結果をもって アイミューンは食品医薬局に自社の粉末を医薬品として認可するように申請しています。その名前もピーナツ粉ではなく 医薬品らしく パルフォルチアと呼ばれています。この医薬品は 患者にピーナツを食べる能力を与えるというものではなく、患者が間違って少量のピーナツを摂取してしまった場合に患者の生命を守るのに役に立つというだけの効能を表明しているにしかすぎません。医療アナリストによれば 一年間の治療費は4200ドルにもなり、患者は 治療を永久に続けることすらありうるのです。

2019年9月の投資家へのプレゼンの中で アイミューンは パルフォルチアの販売量は 10億ドルを超えると推定しています。文書のなかでは 暫定的な金額として 薬品代は 年間3000ドルから20000ドルであろうとし 投資家に対しては保険会社がこの薬品を給付対象とすることに合意したと明言しています。販売量は 「認定介護士」や「命にかかわるようなショック症状を心配する親や家族」に支えられています。プレゼンそのものは アイミューンのウェブサイトから 本日朝、削除されたようです(アイミューンは 我々の問い合わせにはコメントしてきていません)。

サウスフロリダ大学の薬事・小児科教授 トーマス・カサ―レは FAREの主任医療顧問でもあります。カサーレは この会社の製品での治験論文では ビッキーの共著者でもあります。筆者はカサーレに 何故ほかの会社が ピーナツ粉を単なるサプリメントとして、数ドルの価格で売りに出せないのかを尋ねました。 小規模ではありますが 2018年の研究では 研究者は一粒の125000分の1の量のピーナツをアレルギーの子供に与えることで 弊害なく 徐々に12粒まで摂取可能にしたという報告があったのです。

「まあ そうでしょうね」と口を濁しながらもカサーレは、保険適用かどうかが評価の分かれ目と続けました。たとえピーナツ粉であってもそれが食品医薬局認可の医薬品となれば 医者は その処方箋を出し その投与を監督することで 収入が得られるわけです。対して 非認可方式での経口緩和治療を施す医師たちでは 患者は治療費をすべて自らの支出でカバーしないといけません。これこそが 多くの患者から 緩和治療を遠ざけている理由です。つまり 治療の広範な実施のためには その治療が保険給付制度と一体化することが必要ということです。この制度との一体化とは 製薬会社と医師たちが 保険会社に単なるピーナツ粉の代金として何千ドルをも請求できるシステムであるわけです。

サンフランシスコにあるカリフォルニア大学の内科医兼保健政策アナリストの ジェフ・タイスによれば「患者たちは絶望の淵にあり、恐怖感すら抱いているため 巨大な需要がそこにはあります」「保険会社は この医薬品が急速に採用されていくだろうという見通しをもとに その巨大な請求額というインパクトに自らを備えつつあります」

急速な かつ広範な需要が巻き起こるということは その安全性に関する懸念をも顕著にしていきます。タイスは 研究チームを結成し この製品に関する詳細報告書を 医療経済検証機関に提出し、その中で この製品は明確な効能がないのに広範に使用される可能性があると結論付けています。タイスによれば この薬は重篤なアレルギー症状のリスクを低減するわけではないので食品医薬局認可には根拠が不十分という結論となります。

ニューイングランド医薬ジャーナルで強調されていなかったのは 患者がこの薬を服用し始めた時期には 重篤なアレルギー症状を示す率は6倍にまでなっていたと言う事です。試験室レベルではピーナツ錠剤摂取グループは ピーナツを2粒まで食べることができるようになったのですが 試験室の外では 14%の患者たちは ピーナツ成分の摂取に起因するアレルギー反応に苦しみ これはコントロールグループ(アレルギーでありながら ピーナツ錠を摂取していなかった群)の3%に対峙しています。「このような症状こそが 我々医師が防ごうとしているものであって、例えば緊急外来に運び込まれたり 学校で間違って飲み込んでしまったりとかの事件に相当するような結果です」「治験では 確かに緩和効果を示しました、しかし それを上回る弊害を示したうえ長期の効果の不明瞭なものに終わっています」

4月には、ランセット誌がメタ分析をもって同様に結論しています。非常に高い確度で、ピーナツの経口免疫療法は、アレルギー症状やアナフィラキシーショックを、除去療法やプラセボ摂取群に対して、相当の割合で増加させると結んでいます。食品医薬局委員会は この薬の使用目的を 患者の偶発的なピーナツ摂取においてアナフィラキシーショックに至るリスクを軽減するものとして認可の検討対象としています。「しかし この薬を摂取した患者では このリスクが増大しているわけであって、減少などしていないのです」

タイスは続けます「アナフィラキシーショックの増大が 患者が医師団に守られているといった安心感を盾にピーナツを大量に摂取してしまったためなのか それとも薬自身のためなのかを判断することは不可能です」。管理体制下での治療は 患者たちに実際の社会の中にいるよりも 自分が守られているという錯覚を生じさせるものであるからです。やわらかめな表現を使用しても(アナフィラキシーショックの増大は) アレルギー物質への感受性が下がるというメリットなど吹き飛ばしてしまうものでしかありません。他の言い方をすれば 総体的には 何十億ドルもするピーナツ粉は ピーナツに対する重篤なアレルギーを増やしてしまうだけの結果に終わるのです。事実を言えば この薬はだれもが知っている一般薬に 今まさになろうとしていますが そこにはエビデンスといえるものはほとんどなく、単に医薬品が認可される様式の大きな変容を反映しただけに終わっているのが実態といえます。旧来の様式では 薬が認可されるまでには 二回の治験を通して 安全であり有効であるという結論が得られたものでなければならないというものでした。過去数十年の間に 食品医薬局は その手綱を緩めて 有意であろうと有意でなかろうと 効果に関する多少のエビデンスの提示しか要求しなくなってきているのです。患者の少量へのピーナツへの感受性を和らげるからといって パルフォルチアが 患者の寿命を延ばすわけではありません。また この薬が 患者を 入院を必要とする事態から遠ざけたり 重篤なアナフィラキシーショックから守るわけでもありません、(食品医薬局は 現在実施している聴聞会に関してのコメントはしませんが 食品医薬局の聴聞委員会は 本日 このような懸念を表明するものと思われます。)

ビッキーは もうアイミューンの常勤ではありませんが 次のように認めています「高価な治療ではあるが 我々は パルフォルチアが期待されている効果を上げうるかすら知らずに実施している。」しかしながら 彼はこの認可が意味するところは ピーナツ粉などよりはるかに巨大であって 「もし 仮に スタートアップ間もない企業が 1000人程度の治験を行い ピーナツアレルギーの認可治療薬として その製品を市場に出すことができるのであったら・・・」投資家はこの分野に蝟集してくることだろう。 過去には 何年もかかり 数次の治験を経て 研究と開発に数百万ドルもかけて初めて市場に出せていたのが医薬品なので 「もしこのような最初の製品が認可されないとしたら この分野では大きな後退が起き」慎重な投資に誘われていくだろうと ビッキーはあくまでも楽観的な見方を崩さない。

もちろん あわただしく認可され 採用された薬で患者に危害が起きるようだったら さらなる後退がおきるだろう。筆者が話した誰もがピーナツアレルギー治療の必要性とその需要を強調していたが 患者の代弁者は 効能よりも害の多い クスリの認可を推進する折には 忍耐強さには欠けるもののようだ。

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訳者注記

経口緩和治療は 現在 唯一有効なアレルギー治療といわれ イギリスなどでも広範に採用されています。確かに 相当な割合で効果を上げ 患者が 除去食を必要としない生活に戻れた わずかな量であれば 問題ないというところまで改善することも多いようです。しかしながら まったく効果をあげない例も多く存在し 万能であるとは言えないところが この治療の難所です。いくら頑張っても まったく改善しなかった苦労しただけに終わったという例もまた存在するのです。ピーナツアレルギーの場合 症状が激越であることが多く 治療中に引き起こされるアレルギー症状のデメリットのほうが 改善効果のメリットなど打ち消してしまうと言う事も大いに考えられます。この記事は 社会としてのメリット・デメリットを総和して治療法が採択されるべきだとの総体的なリスクマネジメントを提唱している点で、傾聴に値します。


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