飲食デリバリーの構造、問題と予測【食品と科学】

飲食デリバリーの構造、問題と予測【食品と科学】

一般社団法人 食品品質プロフェッショナルズ会員の森本覚(一般社団法人 日本食品安全協会(本部大阪) HACCP指導担当)が執筆した記事が、食品と科学 2020年10月号に掲載されました。月刊 食品と科学様の許可を得て、公開しております。

本文紹介

飲食デリバリーの構造、 問題と予測

森本 覚
一般社団法人 日本食品安全協会 (本部大阪) HACCP指導担当


2020年8月現在、 日本国内において、 新型コロナウイルスの第2波に直面しています。

緊急事態宣言でいったんは収束に向かったと思われたコロナ禍ではありますが、 緊急事態宣言前よりも多くの感染者が連日報告されています。 その中で、 食の提供において加速が続く飲食デリバリーに関して調査しました。

飲食デリバリー市場規模は、 下記のように推移しています。

規模前年比
2016年3770億円+5.8%
2017年3857億円+2.3%
2018年4084億円+5.9%

まだ統計は公にはされていませんが、 2019年はおそらく同様の成長率と予測されています。 更に2020年はコロナウイルスの影響により、 どれほどの規模になるか全く予測がつかない状態です。

一方で、 日本の外食産業におけるデリバリー比率は、 2017年で約3%と先導する韓国 (10%) やイギリス (8%) などに比べ、 低い水準にとどまっています (2018年 「外食・中食 調査レポート」 より)。 特に中国においては、 2018年度予測として、 市場規模約11兆円、 外食産業における比率は14・8%にも達するといわれています。 日本の現状と今後における問題提起を行う前に、 中国のデリバリー市場に関して触れておきます。

中国のデリバリー市場

規模外食産業に
占める割合
2010年9750億円3.3%
2015年3兆9850億円7.4%
2018年約11兆円14.8%

特筆すべきは、 外食産業における割合の増加です。 日本の3%と比較した場合の差は明らかです。 その理由として、 一つは社会情勢です。 フードデリバリーの需要が高いのは間違いなく大都市圏です。 日本では第1子の出産をきっかけに約6割の女性が退職していますが、 北京では企業で働くほとんどの女性が、 出産休暇を終えるとフルタイムの職場へと戻っていきます (「2016中国労働力市場発展報告」によると、 中国の女性の労働参加率は64%で、 世界平均の50・3%を大きく上回っています)。 そのため外食やテイクアウト、 デリバリーで食事を取る家庭が非常に多いといわれています。

しかしながら、 調査を行うと、 消費者・レストラン・配達員をスマホツールによってつなげ、 構築されていった信頼こそがデリバリービジネスが拡大している最大の理由と感じました。

以前の中国で問題になっていたこと

レストラン視点での問題

【問題】同業他社や単なる嫌がらせによる空注文

スマホによる前払い決裁で解決

消費者視点での問題

【問題】料理のクオリティー (美味しくない、 適温ではない、 量、 液漏れ等)
【問題】配送のクオリティー(遅配、 態度が横柄等)

店は日本でいう 「食べログ」 のような評価システムを採用しています。 評価が低いと注文数が減少してしまう。 売り上げ確保、 増加するためには消費者からの評価を上げることが必須となり、 料理のクオリティーに対する意識が向上した。

配送員も、 配達員評価システムにより評価。 最低評価がつくと罰金や、 以降の仕事がどんどん減るため、 丁寧な仕事をせざるを得ない。 評価システムにより解決

【問題】衛生管理以前は実店舗を持たないデリバリー専門の違法業者が横行 (営業許可も無く、 マンションの一室で調理している等)

規制が厳しくなっている。 デリバリー業者も、 経営者の情報、 食品安全検査の結果、 厨房や店舗、 営業許可証などの写真も掲載し、 レストランの安全性をアピールすることでユーザーからの信用を得ようとし、 解決

配送員視点での問題

【問題】住所ヒアリングミスなどによる配送効率の悪さ

個人情報は事前登録しているため、 住所相違などのミスはほぼ無くなり解決

上記のように、 問題が解決される過程で、 参画するレストラン・利用する消費者・事業を開始する配送スタッフが急激に増加し、 市場規模が拡大しているようです。 日本の場合、 例えば衛生管理に関して、 以前の中国のような無許可営業者が横行しているわけではありません。 また、 ほかの問題も以前の中国ほど発生しているとは思えません。 従って、 同様の理由だけで中国ほど急激に市場規模が拡大するとは思えません。 ただし、 評価システムに関しては、 今後の日本でも同様になっていく確率は高いと思えます。

フードデリバリープラットフォーム

いわゆるフードデリバリープラットフォームとは、 従来の 「出前」 の料理を除くオーダーデリバリー集金をサポートすることにより、 それまでは出前を行うことができなかった飲食店がデリバリーという新しい販路に参画することをサポートしています。

一方、 利用者は、食べたいものを注文して受け取ることはなじみのある 「出前」 と大きく変わりません。 しかしながら、配達側の仕組みには、 今のIT環境だからこそできる技術が多く利用されています。 以下では、 フードデリバリープラットフォームの代表的企業 「UberEats (ウーバーイーツ)」 を例に、 その配送側の仕組みや特徴を取り上げます。

AI

オーダーを受けた管理部署から、 配達員の位置把握、 配達実績、 利用者からの評価等、 様々な指標をもとに、 各配達員へ割り当てられる。

ダイナミックプライシングの活用

悪天候や依頼が殺到する時間帯・地域などでは、 配達員が手にできる賃金に、 適宜ボーナスフィーが設定される。

評価制度によるクオリティー管理

オーダー受付から配送までの時間、 利用者からのフィードバック、 オーダー拒否率など、 様々な指標で配達員は評価される。

GPSデータの共有

配達員の位置はGPS情報にて、 管理センター、 注文者に共有される。

決済機能

前払いキャッシュレス決済を行うため、 商品の配達時に金銭の授受の必要がない。

もちろんすべてのフードデリバリーサービスプラットフォームが、 同様の機能を備えているわけではありませんが、 AIやIT、 そしてスマホ/GPSなどのデバイスを使うことで実現する、 実はとてもハイテクなサービスであると言えます。

日本国内のフードデリバリーサービスプラットフォームにおいて、 現在シェアを伸ばし続ける Uber Eats と出前館に関して比較検討してみたいと思います。 (出前館に関しては、 配達員が店舗雇用のスタッフのケースも多いので、 完全にフードデリバリーサービスプラットフォームとは言えない)

初期費用

「新規ビジネスへの参入」 という位置づけで考慮した場合、 驚くべき費用の低さです。 しかも大半の出店業者はすでに飲食店経営を行っているケースがほとんどのため、 調理設備 (厨房機器等) も既に準備されています。 コスト面における参入障壁は非常に低いと言えます。

月額利用料

両社ともに0円。 これは出店しても全く売り上げがない場合を想定しているのでしょう。 仮に月額料金が固定で発生すると、 採算が取れない出店者はどんどん撤退してしまう恐れがあります。 その場合、 プラットフォームにおいては、 商品数が減ってしまうため、 利用者離れを起こしてしまう可能性があります。 実際にほとんど売り上げはないが、 費用が発生しないため、 とりあえずは出店を続けている出店者も一定数いると予想されます。

手数料

月額費用を0円にしている反動でしょうか? 注文があった際の手数料は35~40%ほどです。 (出前館においては、 配送も委託した場合) この手数料の高さでは、 通常イートインで提供する料金では、 経営上非常に厳しくなります。

例イートイン価格800円の商品をそのままの価格で販売した場合、 手数料を差し引くと480~520円で販売したことになります。 比較的原価率が低い飲食業においても、 現在は人件費等様々な経費は上昇しています。 したがって、 デリバリーで同じ商品を販売する場合、 料金設定を値上げする出店者が大半です。 先述した800円の商品をデリバリー価格として例えば400円上乗せし、1200円とする。 その場合、 ようやく手数料を除いた売り上げが720~780円となります。 イートインより高くなっていることは、 消費者はすぐに気付きます。 大手であるマクドナルドでさえ、 フードデリバリーサービスプラットフォームを経由した場合、 通常価格より約1割価格が高くなっています。

売値の高さ=消費行動に大きく関わってしまいます。 出前館においては、 配送を業務委託せずに自社雇用すれば、 この手数料は10%にとどまります。 その代わり配送スタッフの人件費が発生します。 仮にデリバリースタッフの時給が1000円の場合、 1時間に3件配送した場合、 1件の費用は約330円です。 デリバリー人気店なら、 自社配送の方が利益率が高くなる可能性はありますが、 新規参入する小規模事業者の大半は、 固定費を抑えることができるため、 配送を委託するケースが多いと思われます。

以上をまとめると、 出店障壁・固定経費の低さ、 コロナ禍における外食機会の減少、 売り上げ拡大を図る飲食店の出店はこれからも加速すると予測されます。 市場全体も少なくともコロナ禍が落ち着くまでは拡大することが予測されます。 一方、 加盟店舗の急激な増加に間に合わず、 数カ月も出店を待たなければならない状況や、 せっかく出店しても1店舗当たり売り上げの低下が予測されます。 フードデリバリーにおいて安定的な売り上げ・利益を確保するには他店との差別化が必須になるでしょう。

芽胞形成細菌による食中毒

コロナ禍における一般衛生管理 (手洗い等) の徹底により、 一般衛生管理で防止できる食中毒事件は減少しています。 逆に一般衛生管理だけでは制御できない食中毒事件が増加傾向です。 デリバリー、 テイクアウトにおいて、 特に発生リスクがある注意すべき食中毒としては、 ウェルシュ菌・セレウス菌のような芽胞形成細菌による食中毒です。

主な原因としては、 店舗における長時間の室温保存、 根拠の無い (あやふやな) 消費期限、 消費期限告知の未徹底、 デリバリー時の置配、 受け取り後から喫食終了までの時間・保存方法等、 いわゆる危険温度帯での保存において急激な増殖を行うからです。

近年増加傾向のウェルシュ菌は、 増殖速度が非常に速い (世代交代時間10~12分)ことが知られており、 芽胞を形成してしまうと、 一般的な加熱では死滅させることができません。 また嫌気性という特徴を持っており、 例えば大量調理したカレー等では、 空気に触れにくい寸胴の底に近くなればなるほど増殖する傾向があります。 このウェルシュ菌の特徴などに関して、 はたして出店社の何%が把握しており対策が取れているでしょうか? デリバリー、 テイクアウトに新規参入したばかりの小規模店舗に関しては、 経験も浅く把握できていないお店も少なくないのではないでしょうか?

ウェルシュ菌による食中毒事件例

東京都テイクアウトの弁当による食中毒事例
主なメニュー
  • 鶏肉の煮物、 卵焼き、 サラダ、 ごはん等
概要
  • 5月17日 (日曜日) 東京都三鷹市内の飲食店で調製した弁当を喫食した74名のうち60名が、 下痢、 腹痛等の症状を呈した。
  • 患者の便および弁当の残品からウエルシュ菌が検出された。
  • 弁当は飲食店が調理し、 テイクアウトとして店頭で予約客に渡されていた。
原因
  • 食中毒菌を検出した鶏肉の煮物は、 提供2日前に調理し、 常温で2時間以上かけて放冷後、 冷蔵庫で保冷されていた。
  • 提供当日は常温に6時間以上置かれ、 再加熱することなく盛り付けが行われていた。
  • 少ない人員で調理していたことにより、 調理器具の洗浄消毒の不備や調理品の保管状況の不備により、 食中毒菌の付着、 増殖の機会を与えたものと考えられた。
処分

当該飲食店は、 5月24日 (日曜日) から営業を自粛しており、 多摩府中保健所は、 5月26日から5日間の営業停止等の処分を行った。

上記事件は、 危険温度帯での保存時間が長いことから発生しています。 加熱後は急速冷蔵すること、 常温では保存しないこと、 ソースやスープなどは再加熱する際、 撹拌しながらの急速加熱を徹底していただきたいです。 特にデリバリー・テイクアウトに関しては、 消費者がすぐに喫食せず、 そのまま放置することも十分に考えられるので、 注意が必要です。

フードデリバリーに関する消費者の意見

コロナ禍の中、 消費者はデリバリーに関してどのような意見を持っているのでしょうか?

株式会社メニューデザイン研究所が実施した 「新型コロナウイルス感染症による飲食店のデリバリー動向調査」 令和2年4月8日 (水曜日) ~10日 (金曜日) 3日間からいくつか抜粋させていただきます。

Q、 デリバリーする際、 不満に思うことや改善してほしいと思うことはありますか?

  • とにかく値段が高いと感じてしまいます
  • 温かい料理がさめていること
  • 配達時間の目安がわかると嬉しい
  • 受け渡しをスムーズにしてほしい
  • アプリなどの登録が面倒で、 あとあとメールや通知が鬱陶しい
  • 配達員さんの意識 (口にいれるものを扱っているという意識)
  • 1人分だと配達の最低額に達しない
  • 注文サイトでの商品説明をわかりやすくしてほしい
  • 過剰包装により、 ゴミがたくさん出ること
  • 配達員は常に清潔かつある程度の接客技術を身に付けてほしい

Q、 新型コロナウイルス対策として、 飲食店のデリバリーに求めることは?

  • 感染防止
  • もっとお手軽価格に!
  • 商品を詰め込む際にどのような環境でやっているのか知りたい (手袋やマスクの着用)
  • 衛生面 (お金はできるだけ触ってほしくない、 カード決済が安心) マスク、 消毒など
  • 作っている人、 配達員の衛生管理
  • ドライバーの衛生管理 (手を洗わないまま商品に触れられると心配)

やはり、 構造上の問題である高価格に対する要望はもちろん、 配送に関する事項が多いように見受けられます。 更にコロナ禍においては当然ではありますが、 衛生管理・感染防止対策に対する要望が非常に多いようです。

さて、 ここで配送に関して少し触れておきます。 店舗が雇用しているスタッフの場合、 社員・もしくはアルバイトのため、 一定の教育は受けている可能性はあります。 また、 雇用主のルールとして体調管理や検便などの検査を実施していることはあるかもしれません。 しかしながら、 個人事業主はどうでしょうか? 食品配送に関する経験・知識が無い方も多くいらっしゃるだろうし、 体調管理・検便などを実施している個人事業主はほぼいないのではないでしょうか? また、 個人事業主にとっては配送数を増やすこと=収入になります。 丁寧な接客よりいかに件数をこなすかを重視する可能性もあります。 スピーディーな配送は消費者にとってメリットの一つであることは間違いありませんが、 消費者は配送に来るのが店員なのか、 個人事業主なのかもちろん知りません。 あまりに接客態度が悪ければ、 注文した店舗に対する悪評にもなりかねません。 この点に関しては、 前述した評価システムがよりアップグレードされていくことを望みたいです。

余談にはなりますが、 Uber Eats では廃棄に関する 「10分ルール」 というものがあることをご存じでしょうか?

最初に通常通り配達をします。 到着後、 インターホンを鳴らすけど不在。 通常、 メッセージを飛ばすか電話します。 これも空振り。 電話をしたあとに Uber Eats 配達パートナーアプリに戻ると、 ○○さんは応答しませんでしたか? という表示が出るのでタップします。

タップすると1000~カウントダウンのタイマーが発動します。

Uber Eats の規定では、 最低2回はお客さまと連絡を取ってくださいとのことですので、 カウントダウンが進むのを待ちます。 この間、 電話してもOKです。 サポートへ電話しても話が進まないことの方が多いです。 サポートもお客さまと連絡が取れないためです。

タイマーが000になると、 この配達を終了することができます。 つまり廃棄になるわけです。 以前、 廃棄になった商品をドライバー自ら食べているところを、 外出から戻った注文者が見つけたことがあったようです。 Uber Eats としては、 規約通りに廃棄処理しただけということで、 仮にこの注文者が責任問題を訴えた場合は、 あくまでも個人事業主との間のことになるようです。

競争、 差別化のポイント

店内喫食と、 デリバリーでは消費者からの選定基準が大きく異なります。

例えば、 店内喫食の場合は味・品質、 価格、 内装、 立地、 接客、 衛生管理状態、 雰囲気等様々な基準があります。 しかしながら、 デリバリーの場合、 内装、 店員の接客態度、 立地など、 極端にいえば店内飲食の場合、 品質・味は大差なくてもそれだけで差別化することも可能だったが、 デリバリーの場合、 判断基準から完全に外れてしまいます。

従って、 デリバリーにおいて差別化しようと思えば、 例えば下記の要素があるのではないでしょうか?

  • 衛生管理
    • 第三者の認証・適合証明
    • 取り組みの告知 (衛生監査、 食品検査等)
  • 食品に対する安心感
    • アレルギー表記
    • 消費期限、 保存方法の告知 (根拠)

上記を 「見える化」 することができれば、 少なくとも安全・安心面に置いて、 他社との差別化を図り、 新規注文を手助けするのではないでしょうか? そのうえで、 味・品質が確かならリピートも獲得でき、 コロナ禍が落ち着いた頃には店舗へ来店するファンを獲得できるのではないかと思います。

僭越ではありますが、 我々一般社団法人 日本食品安全協会 (本部大阪) は、 認証・適合証明のサポートや、 定期的な衛生監査・食品監査を実施しております。 また新型コロナウイルスに対する対策もサポートしております。

飲食デリバリーをうまく利用すれば、 現時点の売り上げアップになるとともに、 将来的な優良顧客を見つけることができるといっても過言ではありません。 そのため、 とりあえず出店するだけではなく、 研究・改善に努めていただき、 消費者の食生活を支えていただきたいと心より願います。

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