一般社団法人 食品品質プロフェッショナルズ会員の江川永が執筆した記事が、食品と科学 2020年5月号に掲載されました。月刊 食品と科学様の許可を得て、公開しております。
目次
冒頭紹介
中小企業にとってのSDGs
最近よく耳にするSDGsとは
魚類学者のさかなクンが「水産資源の管理と保護」について意見を求められ、2月12日に開かれた参議院国際経済・外交に関する調査会に参考人として参加されました。この時、さかなクンのトレードマークのハコフグ帽子をかぶっておられましたので「特例で帽子の着用を認められた」とニュースになりました。国会の規則では帽子の着用は礼節を欠くとして基本的に禁止されているのです。
このハコフグ帽子のことが話題となっていましたが、委員会室に現れたさかなクンの白衣の襟元のバッジに気づいた方はおられましたでしょうか? この17色のドーナツ型のバッジがSDGs(エス・ディー・ジーズ)バッジです。
元々、開発途上国を支援する目的で「ミレニアム開発目標(MDGs)」が2000年に国連で採択されていました。SDGsは、そのMDGsの後継として2015年9月に国連で採択された、2030年までに国際社会が協力して達成すべきとされた共通の目標です。SDGsは17のゴールと169のターゲットから構成されています。
- 貧困をなくそう
- 飢餓をゼロ
- すべての人に健康と福祉を
- 質の高い教育をみんなに
- ジェンダー平等を実現しよう
- 安全な水とトイレを世界中に
- エネルギーをみんなに そしてクリーンに
- 働きがいも経済成長も
- 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 人や国の不平等をなくそう
- 住み続けられるまちづくりを
- つくる責任 つかう責任
- 気候変動に具体的な対策を
- 海の豊かさを守ろう
- 陸の豊かさも守ろう
- 平和と公正をすべての人に
- パートナーシップで目標を達成しよう
外務省HPより
SDGsと企業
SDGsと聞くと、途上国支援の慈善活動や、環境保護のような特別なことというイメージがあるかも知れません。実際、大企業がアピールしているのはSDGsのこのような部分である印象が強いことでしょう。しかし上記の17のゴールを見ていただくとわかるように、SDGsの範囲は多岐にわたっています。
SDGsは「持続可能な開発目標」と訳されています。この部分がまっとうな企業活動と重なる部分であり、企業規模にかかわらず、企業活動に自然とSDGsをすでに取り入れている部分が多いと思います。
企業にとって大切なことは事業が継続されることです。会社が続いていくためには適正な利益を上げ続けなければなりません。そのためには消費者に受け入れられるものやサービスを他社よりも優れた条件で提供しなければなりません。提供する側であると同時に、企業は消費する側でもあるわけですから適切な条件で供給してもらわないといけません。企業と働いている人との関係でも同じで、お互いに適切な条件で働くことができなければ人が続きません。一方だけが過分に得をするのではなく、すべてが得をする企業活動をすることが理想です。
また、SDGsは17のゴールとともに、より具体的に169のターゲットが挙げられています。「企業活動を通じて社会に貢献する」と言うのが、どこの企業でも経営理念に織り込まれていると思いますが、具体的に今何をすればいいのかSDGsを見ると非常にわかりやすくなっています。
大企業の取り組みと中小企業
SDGsに取り組んでいる企業というと大企業を連想される方も多いでしょう。大企業では専門の部署を置いて、SDGsに取り組んでいるところもあります。株式市場で資金を調達する上場企業は投資先選定基準を気にせざるを得ませんが、最近は企業の社会的貢献度を選定基準にする動きがあります。社会的責任をより多く果たしている企業の株式を中心に組み込んだ投資信託の商品も発売されており、確定拠出年金などの説明で聞かれた方も多いはずです。
このように大企業は他社との差別化にSDGsに沿った経営を使っている側面もあります。17のゴールのうち、他社と同様に一生懸命取り組んでいるところはあえてアピールすることはせず、自社で独自に取り組んでいる部分をアピールする傾向にあります。よって世間の目に触れる部分はどうしても後者の方になってしまいます。このような企業の特別な取り組み事例を見て、「うちの規模ではSDGsとあまり関係がない」と感じる方もおられるのではないでしょうか。
SDGsを企業活動に取り入れる
SDGsの1~6に示されたゴール は開発途上国で解決しなければいけない課題がメインです。ここに対して企業が持ち出しで慈善事業をするというやり方もあります。しかしSDGsに企業が取り組むのであれば、自社の企業活動を通じて解決できる社会問題に、ビジネスとしてかかわるほうが、よりSDGsの理念に近いのではないか思います。
途上国支援で直接的なものやサービスを扱っている企業はイメージしやすいかも知れません。たとえば水をきれいにする技術を持っている企業でしたら上水道が普及していない地域で「6.安全な水とトイレを世界中に」に沿った企業活動ができるでしょう。しかし、直接的なものを扱っていなくても、どんな企業も意識していないだけでSDGsに実はすでに関わっているのではないかと思うのです。