代表理事の広田鉄磨が執筆した記事が、食品と科学 2016年5月号に掲載されました。月刊 食品と科学様の許可を得て、公開しております。
冒頭紹介
はじめに
前稿で飲食業向けHACCPの問題点について述べました。これ以降の稿ではその対策、中でも技術的な問題の解法に肉薄してみたいと思います。第1にビジネスリスクの考え方の導入(ビジネスリスクという尺度の上での判断、ビジネスリスク案件の危害要因としての採用)、第2にゼロトレランスという亡霊の呪縛からの開放、第3に保健所の衛生監視指導との整合を図ること、最後に力量育成というハードルの克服に向かっていきたいと思います。月刊誌で発表しているという紙面上の制約もありますので今回はビジネスリスクの考え方導入について述べさせていただきます。
ビジネスリスクという尺度の上での判断
まず問題提起をします。飲食店の経営者の目に食中毒がリスクとして映っているかといえばいかがでしょう? 自治体保健行政の指導監視計画の報告書を読み漁っても、そこで明らかに「これは営業停止をくったな!」と思わせる事例はごくわずか。保健所としても明らかにその店舗で出された食事が原因している、それも複数件同じ原因菌による食中毒であることが歴然としてもいない限り、行政処分に至ることはありません。では、実際に店舗が営業停止を受ける可能性というのはどれくらいなのでしょうか。
私の職場に近い大阪市の例を引きますと、2014年度において飲食業店舗数は6万6780店、https://www.city.osaka.lg.jp/toshikeikaku/page/0000128684.html その中で2014年度に営業・業務停止となったものはわずか55店(食中毒事例として報告されたものは45件)でしかありません。
簡単にいいますと、道を歩いていたり車を運転していて交通事故にあい、それによって死傷を受ける程度の確率です。これでは飲食店の経営者からは可能性としては無視できるととらえられても仕方ないでしょう。また営業停止を食ったとしても数日後には営業を再開できるわけで、ちょっとの間寝ていれば直ってしまう軽い風邪程度のものでしかありません。リスクマネジメントの観点からいえば、例えば資金繰りが悪くなって倒産するとか、悪い噂が立つことで売り上げが愕然と落ちるとか、経営者自身の体や心の調子が悪くなって経営がおろそかになるとか、承継がうまくいかずに店舗を売り払う羽目になるとかのほうがはるかに現実味を帯びており、想定されるダメージが大きいからです。