本会会員の緒方寛剛が執筆した記事が、食品と科学 2016年9月号に掲載されました。月刊 食品と科学様の許可を得て、公開しております。
目次
冒頭紹介
HACCPの現状 “実態”について
平成26年度、農林水産省の実態調査では、全体に占めるHACCP普及割合は29%と3割未満。細分化すると、中小規模層(売り上げ1億円以上50億円未満)34%、大手層(100億円以上)88%と中小規模層に普及されていないことが分かります。
一連の調査も一次産業(農業、漁業、畜産業など)、二次産業(製造業、加工業など)が主となり、弊社のような外食産業や小売業については、データがないほどの普及率が実態とも言えます。
とにかくHACCPと言えば、食品工場が取り組む食品安全と連想しがちですが、最終製品の提供は工場だけでなく、店舗も含まれます。
小論においてはHACCP即ち店舗HACCP=リテイルHACCPとし、述べていきたいと思います。
HACCPの導入に対する“関心度”について
厚生労働省が実施したHACCP普及・導入のための実態調査では、
- 関心はあるが具体的な検討はしていない 30.9%
- 導入予定がない 25.0%
- HACCPのことをよく知らない 19.5%
との結果であり、導入予定がない25.0%を合わせると、半数近くの企業が“関心が無い”のが実態であり、普及の低迷と比例していると言える。
HACCPに“関心が無い”背景について
私見ではあるが、関心が持てない理由として“衛生管理はもともと低い方ではない” “いままで大きな事故もなく現状さえ維持すれば問題はない” “衛生管理にこれ以上経費をかけると儲からない” と根拠に乏しい考えから、問題意識が麻痺しているのではないか、また、“HACCPはお金がかかりそうで、導入メリットが見えない” といった意見も合わせて、関心度の低さが普及率が低迷している理由のひとつと言える。
外食チェーンにおけるHACCPの取り組みと“普及停滞”の背景について
先にも述べたが、店舗HACCP=リテイルHACCPについて取り組んでいる企業は、調べる限りでは、6社程度と数えるほどしか実績がない。
普及しない原因として(個人経営もほぼ同様の問題を抱えている)、以下のことが考えられる。
対象者が多く教育が計画的にできない
店長(正規雇用社員)一人に対して、アルバイトやパートタイマー(非正規雇用社員)が十数名。
教え育つ頃にいなくなるため追いつかない
アルバイトやパートタイマーの平均在籍年数が半年から2年程度と短い。
単一的な工場と違い、複数を不定期に取り扱う
調理場のゾーニングが困難であり、ラインや機器類のメニュー改廃が多く標準化も困難。
金銭管理、顧客対応、衛生管理等、複数の管理項目があり優先順位が常に変動する
店長、アルバイト、パートタイマーの方全員が“調理専従”ではなく、接客をはじめ多くの業務を並行して遂行している。
外国人増加は体感であり、客観的データに基づくマーケティング対応=POSシステム連動が確立されていない
製品提供の対象者の意識は“自国民=日本人”のままであり、衛生管理手法の見直しには至っていない
食品衛生責任者=国家資格であるが、講習会受講後フォローアップ等が整備されていない
飲食店を営むために必要な資格である「食品衛生責任者」と「防火管理責任者」の要件は長きにわたり大きくな変更がない。