COVID-19が学生生活に与えた影響についてのアンケート調査[寄稿]

COVID-19が学生生活に与えた影響についてのアンケート調査[寄稿]

2021年11月20日に開催された第34回日本リスク学会で、一般社団法人 食品品質プロフェッショナルズ代表理事の広田鉄磨が発表した論文の基となったレターです。

本文紹介

COVID-19が学生生活に与えた影響についてのアンケート調査
Questionnaires Addressed to the Students to Identify Impact of COVID-19 on Their Life

○広田鉄磨,関澤純*
Tetsuma HIROTA, Jun Sekizawa

1.はじめに

COVID-19のおかげでビジネス上のインパクトを受けた人たちの調査は進んでいるが、学生という一応の保護を受けている立場ではありはするものの、しかしその保護者の相当数がCOVID-19の影響をもろにかぶっているに違いない 特異性をもった学生というクラスターへの影響度調査は いまだ 学生と社会との関わりをも包含した形では行われてない。 

漏れ聞くところによれば この状況が改善されないまま継続するとなれば 学生の相当数が経済的な理由で自主退学を目指すこととなり 将来の日本の大学生の数の維持に影を落とすことになるのではないか とも危惧されている。また リモート授業は一般化し すでに定着した感はあるものの、その質と教育効果については それを実施している教員自身からも大きな疑問が呈されている。

2.方法

2-1. アンケートの実施日

2021年10月1日に 遠隔授業にて当日の課題として実施した。VOD動画を提供して 質問の補足説明を行い 質問の意図を正確に理解してもらえるように努めた。

2-2. アンケートの対象

関西大学で1年次から3年次を中心とした 男女ほぼ同数で構成される 「食のリスクマネジメント講座」受講者79名を対象とした。関西大学は 関西ではマンモス校であり そこに通う子女は経済的に中流の家庭の出であることが多く 現在の日本の学生の多くの部分を代表できるものと思われる。

2-3.アンケートの項目

  1. コロナ禍は (全体をとおして) あなたの生活にどれくらいの影響を与えましたか?
  2. コロナ禍は あなたの健康に対する関心に影響を与えましたか?
  3. コロナ禍は あなたの食品安全(食中毒など)に関する意識に影響を与えましたか?
  4. 行政が推進したコロナ対策は あなたの目から見て有効なものでしたか?
  5. 行政による経済活動との共栄政策は あなたの目から見て有効でしたか?  
  6. 大学による教育支援は あなたにとって有効なものでしたか?

全ての項目は 1. まったく・・なかった から 5.とても・・あった の5段階評価で答える形式となっており、それぞれの項目に自由記述用の数件の付帯質問を添えた形となっている。これらをもって学生がコロナ禍の自身への影響度と 学生が行政・大学の取ってきた対策群をどのように評価しているかを垣間見ることができるものと期待した。

2-4.アンケートの結果

62票の回答を得た*1。うち36票が男子学生、26票が女子学生によるものであった。ほとんどが一年生と二年生であり 考慮するに値するほどの数の高学年者はいなかったため 年齢による差異については検証の対象とはしなかった。

F検定を行ったところ 

  • 2.健康への関心度と4.行政の対策の有効性(p=0.01)
  • 2.健康への関心度と5.経済との共栄政策(p=0.03)
  • 3.食品安全意識と4.行政の対策の有効性(p=0.00)
  • 3.食品安全意識と5.経済との共栄政策(p=0.02)

の分散には差異があり、学生の意識の中では これらの組み合わせはどちらかといえば 別個の話題としてとらえられているようであった。

相関を見てみると

  • 生活への影響と 2健康への関心度(p=0.31)
  • 生活への影響と 3.食品安全意識(p=0.21)
  • 健康への関心度と 3.食品安全意識(p=0.35)
  • 食品安全意識と 4.行政の対策の有効性(p=0.27)
  • 食品安全意識と 5.経済との共栄政策(p=0.28)
  • 経済との共栄政策と 6.大学の支援(p=0.25)

の間に弱い相関がみられたが 顕著といえるものはひとつもなかった。

男女差について、

課題のとらえ方のパターン(分散)の男女差は すべて有意で 平均値の差も有意であった。特に 2.健康意識への影響と 3.食品安全意識への影響では顕著で 自由記述の内容から推察すると 女子の回答に比較的頻出する自炊という食事形態が 課題への意識の高まりをもたらしているようであった。

そのほかに自由記述回答から読み取れたものとしては、学生は 1.生活への影響についても コロナ禍のおかげで リモート講義が増え そのため自由につかえる時間が増加し より多くのアルバイトを行えるようになったため収入が増えた、あるいは外出自粛のおかげでレジャーへの出費が減ったため 収入全体は減っているにもかかわらず収支は好転した(貯金が増えた)というコメントも見え、長引くコロナ禍の中で 学生達が したたかに対応しているというたくましい姿も相当数見て取れた。

自分の保護者が経済的に苦しい状態に置かれた場合には 経済的な影響が強く認知されているという傾向が垣間見えた。

同じく 1.生活への影響の中で 友人との接点がなくなったのでふさぎがちとなったというコメントが多く見える一方で 煩わしい人間関係から解放されたという どちらかといえば対人関係を得意としない学生にとっては リモート授業が却って快適なものとしてとらえられていることも見て取れた。

3.食品安全意識では 三密回避対策、手指の消毒などが食品安全にも直結するものととらえられている節がみえ、食品安全の理解のさらなる充実の機会の提供が必要であることが示された。

4.行政の対策の有効性では 三密回避対策群がどちらかといえば効果的なものとして受け入れられてはいるものの、例えば街中でマスクをしていない人を見かけると 即座に自分にとって危険なものとして忌避するという 過剰ともいえる対応も生みだしているのが見て取れた。 またマスクをあまり着用しない・全く着用しない友人に対しても距離を置く忌避傾向も出ていた。

5.経済との共栄政策では Go To…は時機が適切ではなかったという評価が多く、持続化給付金については 自分が(アルバイト先で分配にあずかり)その恩恵を受けた場合には好意的に 単に受給者間の不公平が生まれているという報道だけに接している場合には 非好意的な反応に傾いているようであった。

6.大学の支援については リモート授業は全体に好意的にとらえられてはいたが それは関西大学自身による調査*2でも示されているが、 

6-1平均1~1.5時間かかっている通学という労苦からの開放、と 特にオンディマンドでは 6-2 自分のペースで繰り返し学習できるというメリットが鮮明であった。 大学の調査では質問項目に入っていなかったが 今回回答の自由記述に現れたものとして 6-3通学の経路で(特に満員電車の中で)感染の危険にさらされるという恐怖からの開放も主たる因子であり、さらに6-4 自宅という学生自身にとっては大学の教室よりも快適な環境下で勉強できるということも多く挙げられていた。

相当数の学生から 授業の内容の充実度への不満、友人とのインターアクションの無い環境での学習を継続すること、および 就職へうまくつながるのかという将来への不安などが挙げられていたが 全体を通していえば それよりもなによりも 6-1~6-4のメリットが リモート授業のデメリットを凌駕していることが見て取れた。大学の調査にも表出しているが リモート授業の歓迎は、 授業の質や教員の対応が向上したためというよりは 学生にとっては通学という労苦の減少、通学経路でさらされる感染の恐怖からの開放、都合のいい時に しかも快適な環境下で繰り返し受講できるという便宜性が高く評価されている。

IT機器・奨学金の貸与については 学生からはそういった支援があまり周知されてはいないという印象を持たれているが 実際に利用している学生からはタイムリーな支援として大いに歓迎されていることが見て取れた。

*2関西大学 プレスリリース コロナ禍二年目の第3弾学生アンケートより転載

3.考察

筆者は リモート授業が意外なほどに歓迎されているということを おおきな驚きをもって受け止めた。これは 裏返していえば 大学の対面授業というものが 1~1.5時間の通学という労苦と コロナ感染という危険を冒してまで敢えて受講するほどの価値がないと 学生からは受け止められている証左ではないであろうか。大学が 将来の日本を支えていく知識・力量をもつ人材を育成する場であるべきこと その人材はキャンパスの内外で自発的にネットワークを構築し コミュニケーション能力および交渉力を鍛えていくべきであることを考慮すれば 眼前の事象への対策のみを重視し 長期的な将来への影響を軽視している現在の状況は正しいものとは言えない。 

また 今回のアンケート調査の自由記述にも表出しているが 自発的な意見交換のネットワークを構築しえていないまま 自宅に閉じこもっている状況下では 自分にとって近しい存在である保護者の意見 または 日頃流れているテレビなどのメディアの意見を鵜呑みにしている風が見え 批判的精神の醸成への障害となっていることが想起される。

4.結論

大学教員としては 学生に教育の空白期間を生じさせないためにはリモート授業の充実もかけがえのない選択肢ではあるのだが、長期的には対面授業に磨きをかけ そこから得られるメリットが リモート授業の提供するメリットをはるかに凌駕するものにしていくことこそが 将来の人材育成には最も貢献するものではないであろうか。

引用文献

*1関西大学 食のリスクマネジメント講座 コロナ禍の影響度調査集計

*2関西大学 プレスリリース コロナ禍二年目の第3弾学生アンケート

参照文献

日本商工会議所 新型コロナウィルスに関するアンケート

中小機構 新型コロナウィルス感染症の中小・小規模企業影響調査

国土交通省 新型コロナ生活行動調査

大阪府 新型コロナウィルス感染症対策の府民意識と行動変容」に関するアンケート結果について

全国大学生協連 コロナ禍の大学生活アンケート

国立成育医療研究センター アンケート

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