発症までに時間のかかったノルウェーでのサルモネラ食中毒事件【和訳】

発症までに時間のかかったノルウェーでのサルモネラ食中毒事件【和訳】

出典:Food Safety News(August 30, 2019)
訳者:広田鉄磨

By Joe Whitworth on August 30, 2019

2017年に ノルウェーのオスロ空港で起きたサルモネラ食中毒事件をもとに 研究者たちは 潜伏期間が長い場合もあることに注意を払う必要があると警鐘を鳴らしている。

2017年9月 単相のサルモネラ・ティフィルリウム属群が ノルウェー国立腸管病原性参照研究所によって特定された。journal Eurosurveillance. によれば 症例の広域分布は 当初 国内全域に配送されている食品の関与を疑わさせた。

発症までの潜伏期間は ゼロから16日で、事件が長期化するにしたがって 潜伏期間が長くなっていった。おそらくは 対策が実施されていくにしたがって 患者が暴露された菌の数が減少していったものと考えられる。サルモネラ菌での典型的な潜伏期間は 6時間から72時間といわれている。

研究者たちは 営業停止と調理場の刷新といった すでに確立されているような環境汚染対策をもってしてだけの衛生管理強化では 汚染源を除去することはできなかったと指摘している。

ジョー&ジュースカフェ

21名の患者は オスロ空港のジョー&ジュースカフェで 食事や飲料を摂った。このカフェは セキュリティーエリアの外にあり 空港を訪れる者であればだれでも利用できる。汚染菌は 汚染された食品または 感染した従業員によって持ち込まれたとみられる。

このカフェでは大量の生鮮食材が加工されているが カフェを経営する会社は ヨーロッパで7か国 ヨーロッパ以外でも事業所をもち グローバルなチェーンの一部として このカフェは運営されている。

患者のうち13名は女性で 年齢でいえば 17歳から60歳であった。患者は ノルウェーの10カウンティ―(県のようなもの)に散らばっていた。国際的な問い合わせをしてみても ノルウェー以外のヨーロッパの国々で症例の発生はなかった。

16の症例の発症時期は特定されており 2017年の8月23日から 11月8日まで広がっていたが 最初の週にほとんどが集中していた。15症例で暴露日と発症日が特定されており 潜伏期間は ゼロから16日で、事件が長引けば長引くほど 潜伏期間もまた長くなる傾向が見られた。8月の潜伏期間のメディアン値は4.5日(分布幅:ゼロから5日)、9月以降は 9日(分布幅:2日から16日)であった。

8月22日から28日までの 初期のケースでは カフェに8月中旬に導入された汚染が原因であったとみられる。続く数週間の間 営業は継続されており その間 客や従業員は その汚染に継続的に暴露されていたと考えられる。8月から11月にかけての 潜伏期間の伸長は 汚染源が(食品起因ではなく)環境起因となり 客はサルモレラに暴露されているものの その菌数は減少していったものとみられる。

2017年9月中旬 ノルウェー公衆衛生機関に属するノルウェー国立腸管病原性参照研究所の人間部門が 反復配列多型解析法が 非常にまれなパターンを示していることを解析した。ノルウェーの5つの市に居住する患者は 発症の前の週には国外旅行をしていなかったと報告していた。

最初の4ケースについて 19ページからなるサルモネラ専用のトローリング調査にかけてみた。この調査ののち 調査を 興味のある分野に絞り込み そこには発症前の国内旅行とオスロ空港のカフェでどのようなものを食したかの質問を含ませておいた。

21ケースのすべてで 2017年8月18日から10月13日の間に カフェで食事または飲料を摂ったことが 明らかになった。患者たちが食したものは 少なくとも 3種類の違うサンドイッチ、7種のフルーツであって 調査したすべてのケースに共通する食材というものはなかった。

カフェは何度も営業停止し 再開していた

環境のふき取りと食材サンプルが 9月の現地踏査時、および11月の環境拭き取り時にノルウェー公衆衛生機関によって集められた。調理場の排水 水道蛇口、鉄製の棚の上の水滴の合計6つで 症例原因菌が陽性と出た。 10個の食材サンプルはすべて サルモネラは陰性であった。

「調査によって カフェにおける衛生管理のための定常作業の弱点のいくつかが特定された。それには 調理場の清潔区・汚染区の仕分け、作業の目的に応じた洗剤の選択、どのシンクで手を洗い、食材を洗い、皿を洗うのか といったところが注意されるべきであろう。また ユニフォームの洗濯が適切でなく 工程や原材料に関連する潜在的な危険性の評価や管理が欠如していたといわざるを得ない」と調査書は結ぶ。

10月には 会社が集めた環境サンプルが 民間の試験室に送られ分析され、結果は ノルウェーの獣医学研究所に送られて検証を受け、NRLとNIPHで型の特定を行った。カフェの運営会社からは どの食材問屋から食材を調達しかたの記録が提出され いくつかはノルウェーの外からであった。

9月22日に カフェは 10月13日の再稼働まで 暫定的な営業停止を行った。しかし 10月14日に は確定前の予備試験で陽性と出たため 再度営業停止となった。11月7日には 一検体でサルモネラ陽性が疑われ カフェは再度営業停止を行った。11月8日と15日のサンプルでは陰性であり 11月21日の公衆衛生機関での拭き取りでも陰性を確認した。

研究者たちは 営業会社は管理手段を責任をもって実施し それは自発的な営業停止、調理場の刷新 および隅々までの清掃であったが (いったん環境に住み着いてしまったサルモネラという)汚染源を除去するのは困難であった といっている。

「このケースは 環境由来の汚染というべきで 調理場の排水、水道蛇口、鉄製の棚の上の水滴などから採取したサンプルが陽性であったことから そう推定される。製造環境の踏査で 通常の調理場の衛生管理・食材ハンドリングの定常作業には弱点があることが明確となり そのことが 食材の交差汚染の原因となり 事件の長期化の引き金を引いたと推察される」


訳者追記: いままで 飲食店の衛生管理は 3種の温度管理の徹底であるとか 衛生区と非衛生区の隔離が重要とばかり強調されていたが、 衛生区とは言え 排水溝のない調理場はないといっていいだろう。また グリストラップの清掃など 調理中にやってはいけないといわれながらも 守られていないことも多々ある。今までと多少目線を変えて 使用水ばかりではなく 使用後の水の管理をも主軸に据えるべきではないだろうか


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