(一社)食品品質プロフェッショナルズ理事 西山 哲郎
2018年9月12日に東京都主催で開催された食品衛生自主管理推進講習会で食品防御について取り上げられたので報告したい。
食品防御については、厚生労働省を中心に進めてきたが、昨年、農林水産省もパンフレットを出してきている。厚生労働研究班のガイドラインは、ハード重視であり、ハードを導入すれば、食品防御は対策万全との誤解を招きかねないものであった。
その後、農林水産省は、人を中心とした対策に重点をおくべきとしている。今回の東京都の講演の内容は、ハードも人も重要ということであった。講習の中で、CARVER+Shock法の紹介もあったが、食品工場で実際にどう適用するのかの説明はなかった。
また、事前に問屋業(食品の卸売業者のうち、実際に食品を在庫する業態)に対して、食品防御に関するアンケートを行い、その集計結果も講習の中で紹介があったので合わせて報告する。
回答が36社であり、30問に対して回答する形式である。
まず、食品防御の対策をしている会社が61%、対策をしていない会社が39%であった。
それでは、何をもって食品防御対策としているのか。
個別具体的な質問で61%以上が、「はい」と答えているのは下記の項目である。
「各従業員の業務内容や勤務状況を把握している」
「新規採用者は、朝礼等の機会に紹介するなど、全従業員に認知させるように努めている」
「施設が無人となる時間帯に防犯対策を講じている」
「施設の鍵は管理方法を決め、適切に管理している」
「出入り口や窓など外部から侵入可能な場所を特定し、施錠している」
「納入製品・数量と、発注製品・数量との整合性を確認している」
「保管中の在庫の紛失や増加、意図的な食品汚染行為の形跡等があった場合は、責任者に報告し必要な措置を講じることとなっている」
「敷地内で器物の破損、不要物、異臭等に気が付いた時には、すぐに責任者に報告し必要な措置を講じることになっている」
上記の項目に共通しているのは、食品防御特有の項目ではないということである。労務管理、施設管理、防犯対策、在庫管理など、通常の仕事の一環、あるいは延長線上に食品防御があるということであろう。
一方で、「はい」が39%以下というのは下記のような項目である。
「自社製品に有害物質の混入などが発生した場合、まず従業員等が疑われることを説明している」
「監視カメラにより施設内の監視を行っている」
「訪問者の持ち物を確認し、不要なものを持ち込ませないようにしている」
「意図的に有害物質を混入しやすい箇所を把握し、カバーなどの防御対策を講じている」
「消毒薬や殺虫剤などの有害物質を紛失した場合は、責任者に報告し、速やかに対応することになっている」
「井戸、貯水、配水設備への侵入防止措置を講じている」
「監視カメラにより敷地内(屋外)の監視を行っている」
まず、汚染の可能性、訪問者の持ち込み物、井戸・貯水の監視などは、食品製造業が念頭にあり、どこまで問屋業の実態に合っているか議論があろう。もちろん、問屋業の中には、小分け作業のように開封して加工する業者もおり、そのような作業を行っている場合は、食品製造業に準じた対策も必要であろうが、段ボールに入った加工食品を製造業者から仕入れて、在庫した上で、小売業者に販売するのであれば、井戸の管理まで必要かは疑問であろう。もちろん、井戸がターゲットになり、従業員が腹痛でいなくなった隙に、倉庫の食品を汚染したらどうなるかといったことはあるかもしれない。
しかしながら、通常の発想であるなら、問屋業の倉庫に侵入して汚染するより、小売業者の売り場の方が接近しやすいのではないか。カメラについても導入率が製造業に比べて低いようである。
食品防御は、食品安全以上にサプライチェーンで考えていく必要がある。食中毒菌が相手であれば、意思がないので確率で対処できるが、確信犯が相手であれば、サプライチェーンの弱いところを意図的に狙ってくるからである。
問屋業が標的にならないことを祈ると同時に、問屋業として何が必要か、もう少し議論が必要と考える。
2018年11月1日更新