HACCP、新たな展開に向けて グローバル視点からみた飲食業HACCP【食品と科学】

HACCP、新たな展開に向けて グローバル視点からみた飲食業HACCP【食品と科学】

本会会員の長瀬健一郎が執筆した記事が、食品と科学 2016年7月号に掲載されました。月刊 食品と科学様の許可を得て、公開しております。

冒頭紹介

はじめに

モスバーガーは1972年に日本発のハンバーガーチェーンとして誕生しました。現在では国内約1400店舗、海外に300店舗以上を出店しています。本稿では、これまでの海外進出の経験から学んだことについて、次に2015年のミラノ万博への出展について、そして最後にこれらの経験をふまえた飲食業HACCPへの取り組みについて述べさせていただきます。

海外進出とその課題

モスバーガーの海外進出は1990年代初めの台湾とシンガポールへの出店から始まりました。バブルが崩壊し、いったん日本国内の事業展開に集中していましたが、2006年から再開し、香港、タイ、インドネシア、中国、オーストラリア、韓国と展開してきました。

初出店となる国については、まずは出店可能性の調査から始めます。調査後は合弁会社を作るケースなどもあるため、パートナーの決定まで1年、出店までにさらに1年かかるのが一般的です。この過程で、特に重要と思われるものを、項目別に以下にまとめました。

出店可能性の調査

物価水準、給与、家賃、教育レベル、物流、立地なども、その国への出店を決断もしくは断念する理由になり得ます。また、体感調査は非常に大切な要素です。メインストリートをはじめとした街並み調査のほか、ショッピングセンターなどの繁華街の平日・休日、そして朝昼晩といった時間帯ごとの現地の雰囲気や活気を肌で感じることは非常に大切な要素です。また出店後も、現地の客層や嗜好は様々ですので、メニューや立地などについては試行錯誤を繰り返しながら適正化していくことになります。

メニュー開発

メニューの開発においては、使用したい原材料を必要な量、確保し供給できる取引先を見つけなければなりません。サプライヤーの開発力、再現力は重要な要素であり、当社の要求する品質の食品がつくれるかどうか、その品質を維持していけるかを確認することが大切です。また、食材によっては流通のルールが無く、出所がわからないケースもあり、特に野菜のトレーサビリティの信頼性は低めの傾向にあります。発展途上国では、冷凍と常温の物流が一般的で、チルド配送が無い可能性がありますのでこれも考慮しておくべきでしょう。

食品の輸入

家畜伝染病(鶏インフルエンザ、口蹄疫など)により食肉の輸入が禁止されているケースは少なくありません。また高率関税が課せられる食材では、その国への輸入品が使いづらくなります。一般的に日本で製造したものは品質的には安定していると言えますが、日本産では原価高につながります。近年では原発対応の輸出証明書や検査証明書を求められるケースも多く、手続きに時間や手間を要することとなります。

サプライヤー管理

当該国への初出店だと現地における自社の知名度はゼロで、まだその国での店舗数が少なく食材も少量生産の時期には、製造を引き受けてくれるサプライヤーを見つけるのは簡単ではありません。監査結果の改善要望にしても、建屋の改修など高額な費用がかかる場合は原料コストに跳ね返ってくるおそれもあり、効果的な改善が進まず問題となります。また、日本と同等な検査体制がとれないのも品質管理上の問題で、検査機関が少なく、検査項目も十分ではなく、納期は長く、費用が高価であるという点が挙げられます。

現地スタッフの教育

言葉が違えば、意思を伝えるのに時間がかかるのは当然ですが、専門的な会話では意味が伝わりにくく、コミュニケーションがさらに難しくなると言えます。また、外国の方は一般に日本人よりも自己主張が強い傾向にあり、接客業などではクレームを言ってくる客のほうが悪い、といった態度を店員側がとる場合さえもあります。経験を積んでいる場合でもプライド高いということがあり、本人の期待通りに評価されないとトラブルになる場合もあります。すなわち新人の教育には時間がかかる反面、経験者にしても、どういった待遇をとっていくかといった、どちらにしても悩ましい問題があります。

以上のように海外進出においてはあらゆる方面で課題が発生する可能性があります。さらに、多店舗展開するチェーン店はシステム産業であると言えます。海外に進出する際には、国ごとの製造工場の建設・選定や、食材ごとに産地、製造加工、輸入、問屋、店舗という流れのシステム構築が不可欠なため、多大な時間、労力、コストがかかってきます。この流れがスムーズに連動していないとシステムとしての効率は上がらないことになりますが、一連の構築を単独企業で行うには非常に負担が大きいというのは想像していただけるかと思います。

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