HACCP、新たな展開に向けて 日本料理様式としての和食からHACCPへ【食品と科学】

HACCP、新たな展開に向けて 日本料理様式としての和食からHACCPへ【食品と科学】


一般社団法人 食品品質プロフェッショナルズ和食HACCP担当の杉本修一が執筆した記事が、食品と科学 2016年4月号に掲載されました。月刊 食品と科学様の許可を得て、公開しております。

冒頭紹介

2013年12月、「和食:日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。江戸時代に花開いた和食文化は巨大都市「江戸」の胃袋を満たす食の供給システム、街道や航路など流通網の発達等により、土地の名物料理、料亭や屋台などの外食産業発展につながり、現在の日本人の食生活の基盤を確立しました。今回は和食という日本料理様式の歴史を振り返りながら、少しだけHACCPというエッセンスも交えて考えてみたいと思います。

縄文時代後期の遺跡からは、蕎麦の花粉が検出され、すでに農耕が始まっていたと考えられます。縄文晩期になって、朝鮮半島経由での水田稲作が北九州付近に伝わり、これが弥生時代に入って、急速に各地へ広まっていったとされています。米は生産効率が高く、食味も豊かで栄養価に優れ、かつ保存にも適した優秀な食べ物でした。この時代、栄養学上の大きな転換点を迎えたと言えます。

平安時代に入り、中国の影響を受けたとされる大饗料理が出現します。大饗料理は、藤原氏など高位の貴族の儀式料理であったと言われていますが、この時代は料理といっても、生物や干物などを切って並べたもので、味付け自体は、自分の手前に置かれた小さな皿に、塩や酢あるいは醤などを自ら合わせ、これにつけて食べるものでした。古代国家が律令という中国の法律体系を模倣したように、儀式料理も同様に中国のスタイルを真似たものであるとされています。ただ、大饗料理にも、一部ではありますが、日本的な特色がありました。それは「切る」という調理で、この頃から料理人を庖丁人と呼んだことに象徴され、庖丁上手とは料理がうまいことで、切り口の冴えが料理の出来映えを決めました。日本の神饌の特徴は美しく切ったものを、その切り口を見せながら重ね上げる点にあります。大饗料理は中国の影響を受けたものですが、そこには庖丁で美しく切ることを強調する日本的特徴が読みとれます。この時代、HACCP的に見て興味深いことは、神への貢物である神饌料理にも刺身の原型である「膾(なます)」が見られることです。これは刺身という、魚を生で食するという習慣が、日本では世界で一番長く継続されている証明でもあり、実証的なHACCPと言えるのではないでしょうか。

大饗料理以後の料理様式としては、禅宗の僧侶の間で行われた精進料理があります。当時の中国仏教界では、禅宗が最も重要視されており、そこでは肉食忌避の思想に基づいた精進料理が主流でした。精進料理は仏教徒が肉を断つため、味わいとしては肉に近いものを口にできるような工夫が凝らされ、植物性食料を濃い味の動物性食料の味に近づけるために、小麦粉や大豆粉などに植物油や味噌など、インパクトの強い調味料を合わせる必要があり、整形容易な粉食を前提しています。それらを調味調合するという点において、精進料理が料理技術に飛躍的な進歩をもたらしたと考えられます。HACCPでいえば、原料保管管理や加工技術の進化とも言えるでしょう。

鎌倉時代以降は武士の台頭により、それらを背景とした食文化も台頭し、栄養学的にも充実してきます。また戦を通じて陣中食・携行食の概念が大きく進歩してくることは、現在で言えばスポーツ栄養学にも相当すると思われます。南北朝を統一した室町幕府によって、武家が実質的な支配者となり、この時代に登場した本膳料理は、武家の食文化と言えます。この本膳料理は、大饗料理の儀式的要素と精進料理の技術的要素とが組み合わされたもので、室町時代以降の盛大な饗には本膳料理が供されました。本膳料理は大饗料理と同様、作り置かれた冷めた料理であり、儀式料理としての性格が強いものでしたが、日本料理の原型が完成された料理でありました。つまり本膳料理に伴う「汁」に象徴されるように、その出汁の基本に鰹と昆布が用いられていたからです。出汁の完成は、三陸以北とくに北海道で取れる昆布を前提とするもので、非常に広域な商品の流通網が、この時代に成立していたことを示しています。また鰹節の登場も室町時代のことで、まさに今日の日本料理の基礎が、本膳料理によって確立したことになります。HACCPでいえば、乾燥により微生物増殖を制御し、食品保存技術を高めた食品流通進化と言えるでしょう。

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