FSMS向け内部監査員研修および外部監査員研修の創出について【食品と科学】

FSMS向け内部監査員研修および外部監査員研修の創出について【食品と科学】

一般社団法人 食品品質プロフェッショナルズ代表理事の広田鉄磨が執筆した記事が、食品と科学 2021年4月号に掲載されました。月刊 食品と科学様の許可を得て、公開しております。

本文紹介

FSMS向け内部監査員研修および外部監査員研修の創出について
広田鉄磨
Hirota Tetsuma
 (一般社団法人 食品品質プロフェッショナルズ 代表理事)

内部監査・外部監査のこれまで

 表題の内部監査員研修、 外部監査員研修というタイトルそのものには何ら目新しいものはありません。 QMSISO9001などではずいぶん昔から内部・外部監査の重要性が意識され、 潤沢とまではいえないものの研修も 「探せば必ずある」 といった程度には維持されてきたといっていいでしょう。 他にもISO14001やISO45001など、 規格の要求事項が比較的明確で、 だれが内部・外部監査を行っても参照すべき条項と要求事項がきっちりとしているため、 監査における 「的外れな指摘」 が起きにくい規格群では、 一般的なもとして位置づけられてきています。

 それに対して、 FSMSISO22000ではとくにその概念の中核部分にあるHACCP (その中でも危害要因分析と重要管理点の設定) の解釈が多種多様であって、 何を参照すればいいのかが不透明となりがちです。 リスクにも食品安全リスク、 コンプライアンス (違反) リスク、 ビジネスリスクがありますが、 それらがすべてHACCPの中に持ち込まれてしまっており、 融合しているといえば聞こえはいいのですが、 実は無統制状態に陥っています。 HACCPのしっぽ (解釈) をなかなかつかめない、 運よくしっぽをつかめたとしても、 その先のほうにある胴体や頭 (リスク) はどんなものか想像もつかない、 まるでぬゑのような妖怪なので、 監査員泣かせの規格といえましょう。

 小売業によるチェックリスト方式監査が、 長く二者監査の主流の座を占めているため監査員は 「なぜ?」 を考えることをせず、 単純にチェックリストの要求事項 (というよりはチェックリスト記述事項) への適合の有無を採点する方式に流れがちだったといっていいでしょう。 「なぜ?」 を問いかけるには、 どの条項がそれを要求しているのかを確認するのがまず 「とっかかり」 です。 次にその要求事項は、 その商品に対して適用するのが妥当なのか否かを反芻しなければなりません。 ところが通常の二者監査では、 「お客様の信頼に応えるため」 とか 「お客様に愛していただけるように」 とか、 本当にそんな 「客」 が多数いるのか、 実在するのかどうかも判然としない 「客」 という殺し文句が横行し、 そんな 「仮想客」 の好みをもとに白黒がつけられていくのです。 客とは総称されているものの、 実は声が大きいだけのクレーマーであった場合には、 監査は最初から間違った方向に踏み出してしまっている可能性もあるわけです。

 つまるところ、 FSMSでは要求事項がつかみにくいため、 監査員はなにを参照していいのかがわかりにくくなっています。 悩んでいても監査に与えられた時間はどんどん過ぎていってしまうため、 監査員は思考を停止させ、 過去に (どこかでこれが問題を引き起こしたことがあるらしいという実際には確実性の乏しい情報をもとに) 適不適と白黒をつけていくだけの積み上げ方式になりがちです。 対して監査報告書を積極的に活用すべき立場にある経営層は (鶏が先か卵が先かの寓話に似ていますが) 適不適といった白黒の積み上げにすぎない監査レポートには有効性を感じえず、 監査そのものへの期待値を下げていったのでしょう。

 今回のFSMS内部監査・外部監査研修の創出にあたっては、 このような負のサイクルから内部監査・外部監査を救い出し、 経営を支援する情報源として監査の位置づけをやり直し、 ひいては監査員のキャリアアップにもつなげていくことを目指しております。

弊会創出 内部監査員研修の特色とは

 元来食品産業という業界に対しての行政の指導は緩いものです (この緩さには食中毒がいかに危険であるかという認識が日本では低かったという裏事情もあります)。 現在に至っても、 日本では国内の食中毒による死亡者が年間ゼロから十数名に収まっているという根拠のない統計データが信じ込まれていることがあるくらいです。 HACCPの制度化においても、 食中毒の源泉ともいうべき飲食業に簡略化しすぎてしまい、 その代償として実効性を失った 「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」 なるものを導入しようとしていることには、 行政が食中毒を直視しえていないということが浮かび上がっています。

 食品業界の扱う商品は多種多様であり、 (消費者が期待する官能的あるいは栄養学的な特性はよく似た) 類似商品であったとしても、 その保管温度の高低、 消費期限・賞味期限の長短には大きな幅があり、 消費者がその商品をどう使用するかも消費者自身の判断や好みに大きく依存するという特色を持っています。 こういった多種多様性のため、 行政主導になるガイドライン・マニュアルでも、 (消費者からみて類似の) 商品群全体に横串を通すようなものはなかなか実現しません。 また、 既存の商品群がすでに多種にわたっているのに加え、 毎年毎年星の数ほども新製品が追加されます。 このような手に余る状況下、 行政にすべてを事細かに把握することを求めても土台無理でしょうし、 その指導が的外れとなっても不思議ではありません。

 私どもの作り上げた内部監査員研修プログラムの中では、

 「適合性確認と認証の違い」 によって組織が目指すべき水準を問いかけます。 「準備の進め方」 によって その水準に到達するまでの道筋を示します。

 「コンサル・監査会社・認証会社 (と建築会社・設備会社) の選び方」 によって だれの指導をどのように受けるべきかの解説を行います。

 「一番難しいのが危害要因分析」 によって、 やはり内部監査であっても、 HACCPになじみ、 危害要因分析を駆使できることが必須と唱えます。 また、 危害要因分析の中ではエビデンスを求めますが、 エビデンスの多くは基準文書と呼ばれるものです。 しかし、 この基準文書にも誤謬はあります。

 基準文書といえば、 図の 「ルール№1ボスは常に正しい、 ルール№2もしボスが間違っていると思うならルール№1を見なさい」 は、 私が若いころ好きだった逆説ジョークですが、 実はルールつまり基準文書というものも疑ってかからねばならないのです。

「内部監査の基本」 によって、 内部監査の役割を明確化します。

 「内部監査の実施」 によって、 具体的に内部監査をどう進めていくのかの解説を行います。

 「チェックリストについて」 によって、 チェックリストというものは使いようによってはとても便利なツールだが、 根底にしっかりとした危害要因分析がなければ大きな陥穽 (かんせい) ともなりうることを語ります。

 「不適合について」 不適合の水準はべつに規格に縛られることなく、 会社の方針に沿って好きなように決めていただいていいことを述べます。

 「監査計画の立案」 監査をスタートするにも、 組織全体のかかわることであるからしっかりとした計画の必要なことを述べます。

 「是正処置とフォローアップ」 是正措置というものは、 原因を根本的に取り除くものでなければならず、 その場逃れの対策は通用しないこと、 内部監査チームとして是正措置が実行され、 原因が根本的に除去され、 問題の再発がないことを確認していかないといけない長いプロセスであることを認識してもらいます。

 そして、 これはアジェンダには書き出していませんが、 繰り返し繰り返し内部監査とはリスクマネジメントを通じて経営に関与していくいわば会社のかじ取りを行っていく作業であることを自覚してもらいます。 経営者が参加者であった場合には、 内部監査員特に内部監査チームリーダーに対しては、 その労に報いることなしに会社の経営改善は持続しないことを悟ってもらいます。

弊会創出 外部監査員研修の特色とは

 「内部監査・外部監査のこれまで」 にも述べましたが、 食品安全マネジメント規格の中では、 例えばサプライヤーなどに対しての二社監査の必要性が 「示唆」 されることがあります。 しかし、 実際に監査をどのようにやるべきかを教えてくれるガイドラインはなく、 基本的にはすべてが各企業の裁量に任せられているといって過言ではないでしょう。 その自裁権の高さを極限にまで拡大したのが小売りのチェックリスト方式であり、 よく言えば独自の世界を作り上げています。 これは食品安全マネジメント規格に限らず 「HACCPに基づく衛生管理」 の手引書にあっても同様で、 法制度ともいえる日本版HACCPでもしかり、 自社内部の危害要因分析のみに終始してしまっています。 外部に対してのチェックといえば、 サプライヤーに規格書を出させることくらいしか記述されていないのです。 本来HACCPというものが最低でも自社のワンステップアップ (一歩手前) からワンステップダウン (一歩後) まで、 さらにはアウトソーシングまでをカバーすることを前提としているということを考えると、 現状は不備だらけであるといわざるをえません。

 二者監査についてのガイドラインがないのであれば自ら作り出すしかないと、 筆者自身の監査経験をもとに、 巷間に流布されているものの余分は切り捨て、 足らずは補い、 研修体系に仕上げました。

 また、 外部監査というものは二者監査だけではありません。 最近ではJFS-A/Bのような適合証明という三者監査も出てきており、 1月18日時点でJFS-Bの監査を受け、 適合証明を交付された組織は1200件を超えました。 本来は二者監査の代わりとなり、 あっちこっちの二者監査を毎週のように受けている事業者にとっては救いの神となるはずのものでしたが、 現実にはそういう流れにはなっていません。 単に新たな形式の監査が追加されただけという状況が生まれてしまっています。 このような三者監査は通常不特定多数の顧客を想定しているため、 全方位的な監査項目となりがちな傾向を持っています。 国際的な認証規格に匹敵するほどの項目数をチェックし、 しかし工数つまりかけられる時間は短く、 かつ監査費用も国際的な認証規格に比較すれば半額程度となれば、 監査での掘り下げはあまり深くなりにくいことは容易に理解していただけることでしょう。 そういった制約下でも、 最大の監査効果を上げるにはどうしたらいいのか。 JFSM設立メンバーでもあり、 監査員研修マテリアルを監修した経験もある筆者が、 二者監査と三者監査の底流に流れる同質性と異質性を両方勘案しながらいかに被監査側にとって意味のある監査にしていくかが監査員としての腕の見せ所となっていくかを語ります。

 私どもの作り上げた外部監査員研修プログラムの中では、

 「外部監査の目的」 をもって、 外部監査の目指すところを明らかにします。

 「外部監査の種類」 をもって、 二者監査と三者監査の差異を明確にし、 実は三者監査といいながらも、 背景にいる主要顧客の要請で 「とらされている」 適合証明も多い。 そういった場合、 監査の組み立ても、 のちに監査レポートを読むであろう背景にいる人たちを意識する必要が出てくる…という内緒話を披露します。

 「外部監査の準備の進め方」 によって、 二者監査であれ三者監査であれ、 実施に至るまでの道筋を示します。

 「よく採用されているチェックリスト方式の問題点」 で、 内部監査同様、 チェックリスト方式の簡便性と陥穽を語ります。

 「有効性のあるHACCPかどうかの精査、 管理手段の所在する位置の明確化がなによりも重要」

 二者監査を行っても、 その商品に含まれている危害要因が受け入れ側の企業で管理可能かどうかが判断の上での大きな境目となります。 管理手段の位置については、 今までの研修では十分に語られていませんでした。 例えば、 小麦粉に異物が含まれているとします。 しかし受け入れ側の企業では、 例外なく篩がけしたのちに小麦粉を使用するのであればサプライヤー側での異物除去はさほど重要ではありません。 しかし、 受け入れ側に篩がけの工程がないのであれば、 サプライヤーにおける異物除去は大きな重要性を持ってきます。 三者監査の場合には、 受け入れは一般消費者と想定されることが多く、 一般消費者にすべての小麦粉への篩がけを徹底してもらうことはできないので、 サプライヤー側での異物除去は通常かなり重要とレーティングされます。

 サプライヤーと一般消費者の間に小売りが入ると、 サプライヤー側への努力要請はさらに増幅されがちです。 消費者が篩がけするのが一般的な用途の粉 (例えばケーキ用の薄力小麦粉) であったとしても、 「消費者が篩の上に異物を発見しただけでもクレームにつながる」 となり、 危害要因は消費者側で除去されるにもかかわらず、 クレーム回避の観点からサプライヤー側での篩がけの重要度はますます上にもっていかれます。

 このように二者監査は意外と単純ですが、 三者監査の場合、 背景に誰かがいるかいないかで、 監査員は判定を塩梅する必要すら出てくるということにもなります。 背景にいて三者監査を推進しているのがクレーム回避第一型の主要顧客であった場合には、 三者監査は全方面でゼロトーレランスに近い方向に誘導されてしまう傾向を持っています。

 JFSM設立当初から、 一部の業種がJFS-A/Bの進展に大きな関心を示し、 JFSMの組織運営にまで深く入り込んできたのは、 三者監査を自分たちの目的達成のツールとしたいという目論見も当然あったことでしょう。

 「是正処置とフォローアップ」 是正措置というものは、 原因を根本的に取り除くものでなければならないのですが、 二者監査・三者監査にあてがわれた時間枠と予算では、 効果の確認までは容易ではありません。 まして、 次の機会に行くのは違う監査員であることもしばしば…となると初見での正確な診断が非常に大切です。 外部監査員は今まではどちらかといえば窓際、 安く買いたたかれた人材群であったのですが、 外部監査が本来果たすことを期待されている役割に経営層が気づくとしたら、 これは優秀でなければ成し遂げられない仕事であって、 適した人材のプールが必要であり、 監査員の処遇についても再考しないといけないという結論に至るでしょう。

 「演習 (自社に納入予定の冷凍鶏肉加工品の生産現場を監査したとして)」 で上記の二者監査・三者監査の運用上の差異、 管理手段の所在の位置によって監査結論に差が出ることを体感してもらいます。

 「それ以外の監査対象 (包材など食材以外の資材、 サービス、 (生産委託などの) 業務委託) についての討議」 で知識の幅をもってもらいます。

    としました。 外部監査というものは、 期待値の低い作業であることが多く、 外注されていることも頻繁です。 中身が云々よりも、 監査をやっているという事実だけで満足していることすらありうるのですが、 それでは自社のリソースの無駄遣いであるばかりではなく、 被監査側のリソースをも食いつぶし、 社会としてみた場合、 大きな損失を招いていることになります。

内部監査員研修・外部監査員研修の今後

 内部監査員研修に出てきてくれる監査の担当者あるいは監査員を統率する立場にある人たちは、 直ちにといっていいほど研修のステートメントに納得してくれます。 「目からうろこが落ちた」 「今まで漫然と内部監査をしてきたが、 どれだけ重要な仕事なのかが身に染みてわかった」 といったコメントが続々と寄せられています。 外部監査員研修は本年3月に初舞台ですが、 またコメントが入りましたら下記のURL群で報告させていただきます。

 しかしながら、 監査員だけが納得してくれても、 事態の改善はおぼつかないでしょう。 やはり経営層の琴線に響く形でメッセージを送り込む必要があります。 弊会でも経営層HACCP研修は提案してはいますが、 (コーデックスHACCPを取り上げると4日間にもわたる研修日程にしり込みしているのでしょう) なかなかに参加者数は伸びていきません。 今後はやはり経営改善とでも銘打って、 組織としてリスクマネジメントのPDCAを回していくべきであることを説明する、 短時日で完了できるセミナーを計画し、 効率的にメッセージを伝えていくべきではないかと感じています。

 三者監査であるJFS-A/B適合確認ですが、 これについてはJFSホップ・ステップ・ジャンプ研修と称しての試験的な運用を開始しました。 ホップとはいわゆるJFSM認定監査員研修の復習ですが、 要点を絞り込んだ形で行います。 あまりにも詰め込み形式となっている研修内容を取捨選択し、 監査員の心得帖のような形に凝縮させています。 ステップ研修では、 弊会の熟練者が協力を申し出てくれる事業所の中で模擬監査をやって見せる、 あるいは参加者が模擬監査を行い、 それを弊会会員が評価する。 ジャンプでは参加者がどこかで実施してきた監査の内容を弊会の熟練者に対して説明し、 それを弊会会員が評価する…こういった一連の監査員の成長を後押しする・見守る作業を通じて監査に本来あるべき姿を体得してもらおうという試みです。 まだごく少数の団体との試験中ですので、 もう少し先に進みましたら改めて報告いたします。

 内部監査員研修 https://qpfs.or.jp/seminar210403n/

 外部監査員研修 https://qpfs.or.jp/seminar2103/

 大阪で生まれた 小さな団体が主催する研修群ですが どうか今後の成長にご期待ください。

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