アレルゲンのリスク評価講座を受講して【寄稿】

アレルゲンのリスク評価講座を受講して【寄稿】

一般社団法人 食品品質プロフェッショナルズ 理事
新 武司

 食品事業者の一人として、アレルゲン(のコンタミ)管理はとても難しい面があると、日々感じています。今回、下記講座を受講する機会がありましたので、簡単ですが、私の感じたことをまとめてみました。

講座名

東京理科大学薬学部医療薬学教育研究支援センター

企業・薬局におけるリスクマネジメント講座

食品安全講座④

アレルゲンの食品健康影響(リスク)評価-課題と展望-

概要

講師:丸井英二様 人間総合科学大学 教授 

   内閣府食品安全委員会アレルゲンを含む食品に関するワーキンググループ座長

ゲスト:林亜紀子様 内閣府食品安全委員会事務局   

司会進行:堀口逸子様 東京理科大学薬学部 教授

スケジュール

3/24開催(Zoomにて)

開会の挨拶及び開催の経緯 (堀口氏)

食物アレルギーの食品健康影響評価について (丸井氏)

  1. アレルゲンを含む食品の表示について
  2. 食品安全委員会におけるワーキンググループについて
  3. 食品安全委員会におけるリスク評価について

座談会「アレルゲンのリスク評価における課題と今後の展望」

学んだこと 

※注:Zoom開催ということもあり、筆者の勘違い、理解不足の可能性があること、ご了承願います。

  • ワーキンググループの目的は『アレルゲンを含む食品に関する食品の表示等について、科学的な検証を行う』こと。
  • 食物アレルギーの発症は、『食品が感作を起こすこと』と『(感作された人が)食品により症状が惹起されること』の2段階がある。
  • 食物アレルギーのリスク管理を考える場合、『いいものを作る』だけではダメ(昔からの食品安全の概念と異なる)。『(患者が)アレルゲンに出会わないようにする』ことが大切。それが表示の役割。
  • 食物アレルギーについては知見が限られている。また、評価方法に関する国際的なコンセンサスがない。そのため、ワーキンググループでは、まず『卵』の評価書案を作成することとした(卵は国内の患者数が多く、科学的知見も豊富にある)。
    ⇒ 本来は、評価指針に則って評価書を作成するが、評価指針自体がない。
    事例が豊富な卵について評価書案を作成し、その過程での知見をフィードバックすることで評価指針作成を狙う。
  • 卵についての評価書案が完成。現時点では評価指針の元となる知見が不足しており、評価指針の作成は不可能、時期尚早という判断。
    ⇒ 現時点での科学的知見は不確実性が多い。
    ⇒ 臨床現場からの『何が起こっているのか』を積み上げているものが現状。
    (『なぜ起こるのか』の知見ではない)
  • (評価指針がないため)リスク評価よりもリスク管理が先行しているのが現状。ただし、卵については、海外と比べ『思ったよりも管理が上手くいっている』『リスク評価は概ね妥当』と考えられる。理由の一つとして、『日本では海外と異なり可能性表示を認めていない』ことが考えられる。
  • 今後も、リスク評価の知見(疫学調査含む)を踏まえ、アレルギー表示対象品目の見直しが継続されるが、現時点では対象品目を減らすことは難しいと考えている。
  • アレルギー表示対象品目拡大(≒患者数増加)の一因として、『この成分、食品は健康に良い ⇒ 国全体で摂取量が増える ⇒ 患者数が増える』ということが推測される。

感想、意見

  • 座談会では本音に近いお考えを出していただき、単純に楽しかったです。
    (『リスク評価は出来ない』旨のお話は、立場上、とても難しい気がします。)
  • 上流(研究)と下流(臨床)の考え方の違いは、様々な分野に当てはまると思います。
    食物アレルギーではリスク評価が難しい ⇒ (結果として)臨床側からの(何が起こっているのかを踏まえた)意見を重視したリスク管理が進んでいる』ということは、あるべき姿(リスク評価⇒リスク管理)ではないかもしれませんが、現状の食物アレルギーのリスク管理が『思ったよりもうまくいっている』ことの大きな理由ではないかと個人的に感じました。
  • 『上流だけで考えていては、現実に即したリスク管理にならない。そもそも、上流と下流のリスクコミュニケーションが不足する。』というのは、食品企業でも『本社と工場、店舗』『品管部門と製造部門』という関係で起こりがちです。いわゆる『頭でっかち』な取り組みになっていないか、他の分野でも参考にすべきことだと思います。
    (上流、下流という表現はあまり好きではありませんが)
  • 海外よりも管理がうまくいっている理由として『可能性表示を認めていない』ことが挙げられていましたが、現状の食品企業での管理を考えると、『消費者の意識(患者および関係者の警戒感)』が一番の理由だと思います。
  • 講座で言及された意味とは少し異なるかもしれませんが、食物アレルギーは『昔からの食品安全の概念と異なる』ことを痛感しています(対象品目が多い、動線や作業区画は対微生物が中心となっている、コンタミ後の除去が困難)。しかし、『昔からの食品安全の延長で管理しようとしている』ことが多く、有効性が不充分な管理になっており、実は気づいていないだけでコンタミは多発しているのではないかと思います(あくまで、根拠のない私個人の感覚です)。そういう意味で、筆者は可能性表示を認めても良いのでは?と考えています。
  • 食物アレルギーの表示とは、『患者ではない方は全く興味がないが、患者の方は強い興味を持っている事項』だと思います。そのような背景、さらには上記の『現場重視のリスク管理手法』を踏まえると、消費者まで含めたリスクコミュニケーションが自然と出来ていると言っても良いかもしれません。リスクコミュニケーションの重要性を改めて感じました。

資料


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