一般社団法人 食品品質プロフェッショナルズ代表理事の広田鉄磨が執筆した記事が、食品と科学 2016年10月号に掲載されました。月刊 食品と科学様の許可を得て、公開しております。
目次
冒頭紹介
はじめに
過去に飲食業HACCPに関する問題を提起をし、問題解決へ向けて、対策1、2と著述してきましたが、本シリーズの最後の稿として、対策のその3である人材育成について述べていきます。
マスをカバーできるトレーニング体制づくりを
トレーニングの絶対数の不足
統計調査の実施主体の考え方・カテゴリーの分け方によって、数字が異なっているので、正確にはどれくらいの人間が飲食業に従事しているのか、これこそが信頼できるという数字はありませんが、少なめに見積もって270万人、おそらくは440万人くらいであろうとされ、これは日本の食品産業に従事する者たちの合計793万人の4割から6割近くを占める巨大なクラスターです。
飲食業従事者であっても、HACCP義務化に向けてトレーニングを率先して受講しないといけないような立場にあるものは限定されるでしょうから、まずは3割の正規従業員、最小限に見積もって、そのうち1割が他の従業員の食品安全衛生を指導する役割にあると仮定しても、わずか数年の間に8万~13万人に教育を施さねばならないということです。
民間で実施されているHACCPトレーニングはいくつかありますが、一般的に知られているのは、次に示す農林水産省の高度化支援法の補助金を使用しての一連のトレーニング群です。平成28年度には表のように実施計画が定められていますが、1回ごとに数十名、最大でも100名程度しか収容できないので、仮に全てを飲食業に振り向けたとしても、その食品安全衛生指導者全員を一巡するのに10年近い期間を必要とするわけです。
まして、飲食業で実際に食品安全の要となっているのは非正規従業員である、また衛生指導に当たるものだけではなく店舗運営にあたるものすべてがHACCPについてある程度の知識を持っていないといけないというふうにHACCP展開の正道を歩もうとすれば、トレーニング対象者は飛躍的に増えていくことになります。このように大きなクラスターを相手にする際には、既存のトレーニング群だけでは用をなさず、もっと大規模かつもっと実施頻度の高い形でのトレーニングが準備されていないと話にならないということです。
トレーニングの形式不適
飲食業全体のうち10人未満の事業所が約8割を占めます。この10人未満の事業所で、HACCPを率先して受講すべきは、とりあえず店長・厨房長ですが、こういった人たちは店休日でもないかぎり自分の店を空けるような余裕はありません。管理・監督の地位にある方々が店を空ければ、その店は直ちに機能しない状態に陥る状況なので、缶詰研修に1人参加するとすれば3日分の売り上げを返上しないといけないということになります。