一般社団法人 食品品質プロフェッショナルズ代表理事の広田鉄磨が執筆した記事が、食品と科学 2020年9月号に掲載されました。月刊 食品と科学様の許可を得て、公開しております。
冒頭紹介
キーメッセージ
飲食デリバリービジネスはコロナ騒動による巣ごもり需要に支えられて大きく躍進しました。今では配達バッグを背負って自転車やバイクにまたがったデリバリースタッフの姿が都会の昼間の一般的な風景となりました。飲食店のドアと家庭のドアを結ぶ、ドラえもんの「どこでもドア」のようなサービスは画期的で、社会的な貢献は言うまでもありません。しかし、その影の部分もちらほらと見えるようになってきています。
飲食デリバリーの現在
「外食率」そのものは(高齢化と収入の減少を反映して)バブル期以降はほとんど常に縮小傾向にありますが、(中食を含む)小売り経由で提供される調理済み食品がそれを補い、家計がどれだけを外部で調理された食品に依存しているかという「外部化率」ではなんとか横ばいを保っています。人口の縮小よりも早いペースで、外食費の縮小が進んでいるということには、①経済的な困窮による外食回数の減少、②高齢化を主な要因とする外出機会の減少、③個食化による(飲食店でというよりは)コンビニエンスストアや中食売り場で買ってきた惣菜を自宅で一人で食べることの選好 - などが絡み合っていると思われます。外食は減っている、しかしその減った分を買って持ち帰った惣菜が補っているという構造がここには見えます。新型コロナ肺炎では、もともとは老人になると外に出ることを厭(いと)う傾向がでてくるという現象が、もっと若い年齢層にまで押し広げられ、日本中の総巣ごもり現象を生み出しました。外に出て飲食店に入って食事をしている人はほとんどいない、その結果として、自治体からの休業要請が出ていなくても、店を開けていてもしょうがないからと店側が自主的に休業を選択するところにまで至りました。
ここに救世主として登場したのが飲食デリバリーサービスで、飲食店にとってはまさに救いの神、客が家から出てこないならこちらから配達すればいい、トアツードアという新規の販路を創出してくれました。喜んだのは飲食店側だけではありません。デリバリースタッフにとっては、コロナ不況で仕事を失ってどうしようと悩んでいるときに、なんら免許や資格、初期投資らしいものなしに始められる仕事が目の前にあり、仕事を始めたその日から収入を確保できるという素晴らしいセーフティーネットでした。客側からすれば(拙稿:「コロナ騒動の中の緊急提案~特に外食・中食産業の保全の観点から~」<本誌2020年5月号>にも書きましたが、過剰に恐怖心をあおられて)その目には「危険地帯」と映る飲食店の中には入らずにすみ、できたてのものが自分の家のドアまで届けてもらえる飲食デリバリーはまさに待望のサービスだったのです。旧来の出前サービスがその店の取り扱うものしか配達しなかったのに対し、ニューウェーブの飲食デリバリーサービスでは、あっちの店からこれ、こっちの店からあれと取り寄せでき、まるでフードコートが自宅の中に出現したようなものです。また、旧来の出前サービスも顕著になりつつありましたが、ネットで注文、それもケータイで簡単に注文できる飲食デリバリーサービスは、若い年齢層の心をつかみました。