新型コロナウイルスと食品安全と日本人【食品と科学】

新型コロナウイルスと食品安全と日本人【食品と科学】

一般社団法人 食品品質プロフェッショナルズ会員の江川永が執筆した記事が、食品と科学 2020年11月号に掲載されました。月刊 食品と科学様の許可を得て、公開しております。

本文紹介

新型コロナウイルスと食品安全と日本人

江川 永
Egawa Hisashi
(食品品質プロフェッショナルズ会員)

2020年は新型コロナウイルスで持ちきりの年になりそうです。厚生労働省ホームページ(HP)の新型コロナウイルスに関するQ&A(関連業種の方向け)[令和2年2月25日時点版]で「2020年2月21日現在、食品を介して新型コロナウイルス感染症に感染したとされる事例は報告されていません」と発表されました。社内でクラスターを発生させないこと、従業員に感染者を出さないことが各企業の関心事であり、労働安全の担当が取り仕切るのが一般的と思われます。食中毒事案ではないとされているにもかかわらず、なぜか食品関連企業は品質保証部が中心となって社内ルールを整備したりしていることが多いので、新型コロナウイルスに対して品証の方の関心が高いのではないでしょうか?

新型コロナから見えた日本人の行動

世界を見るとロックダウンなど強制力をもって新型コロナ封じ込めを行った国もありますが、日本は政府が要請を行っただけで国民が自粛に協力し、新型コロナの死亡率も低く抑えることが出来ています。

その一方で、緊急事態宣言中に営業している店への張り紙、帰省者を迎え入れた家への投書、マスクしていない人への暴言のような自粛警察と言われる動きなど、攻撃的な部分も各地で見られるようです。

他にもポピドンヨードがお店の棚から一斉に消えたり、心理面から見ると別のことが見えてくるように思います。

エニアグラム

人間の性格タイプを9つに分類して読み解く道具にエニアグラムというものがあります。各タイプそれぞれ固有の根源的恐れを抱えており、その恐れを解消するために行動するので、タイプごとに行動パターンがあるという考え方です。そしてタイプは一生変わらないとされています。

その代わりに健全度が変わります。同じタイプでも健全度が高い人と低い人では印象が異なって見えます。健全度が高い精神状態がいい人は分厚い鎧をまとっていませんので、そのタイプに固執した行動パターンは少なくなります。結果、そのタイプの特徴を残しつつも状況に応じた行動を取ることが出来るようになります。

逆に精神状態が落ちている人は分厚い鎧をまとっています。鎧の自動反応が多くなり、タイプに固執した行動パターンを取ることが多くなります。状況に応じて行動するのではなく、自分の慣れ親しんだ行動パターンに固執してしまうので、うまくいかないことも多くなります。そして更にストレスをため込んで健全度が落ちる悪循環に陥ります。結果、そのタイプの特徴が悪いパターンとして現れてしまいます。

同じタイプであれば不思議なほど似通った行動を取りますが、自分とは別のタイプの行動を見ると「なぜあの人はあんなことするんだ? 自分なら絶対あんな風にはしないのに…」と理解不能に感じることも多くあります。

エニアグラムのタイプ診断テストはネット検索でも出てきますのでそちらを参考にしてください。ただし設問の意図を自分のフィルターを通して理解して答えてしまうため、本来のタイプとは違うタイプと判定してしまうこともそれなりにあります。各地で開催されているワークショップに参加して、ご自身のタイプを探って行かれることをお勧めします。

国のタイプ

国も各タイプの要素を持っていて、日本はタイプ6的な風土の国であると言われています。勤勉で真面目、まわりと同じであることを好むなどが日本人の特徴と言われていますが、タイプ6の特徴とも重なります。

日本は台風や地震など自然災害に多く見舞われるため、共同体の中での助け合いが不可欠です。自分だけが生き残るのではなく、お互いが協力し合って集団全体の生存率を上げようとします。

また、共同体からはじき出されてしまうと自分の生存に大きく影響しますから、集団の空気を読んでうまく溶け込むことが処世術となります。

日本人はタイプ6的な価値観を良しと日常生活の中で学習しているので、タイプ6以外ではない日本人もタイプ6的な要素をやや多く持つようになっているとも言えます。

周辺国のタイプ

日本以外の国はエニアグラム的に見るとどんなタイプでしょうか。あくまで国全体の雰囲気なので、その国の国民全部が同じ性格タイプというわけではありませんし、地域という単位で見ても国全体と異なる雰囲気のところもあることをご了承ください。

韓国のタイプの推察

上下関係を重視し同調圧力も強い社会を見ると、韓国も日本と同じタイプ6的な面があります。近年韓流ファンが話題になっていますが、同じタイプ6ということで親近感を覚えた日本人がいた部分もあるのではないでしょうか。

韓国ではキリスト教、仏教のような聖書や経典といった明確な教えがある宗教を信仰している人が多いのも、タイプ6の導きをもとめる部分と重なります。ただこれが災いしてか、宗教施設でのクラスターが多く発生しているのが韓国の特徴です。教祖の教えに従えば安心、みんなが信じている教祖の教えだから安全、他の人もやっているから自分一人だけ抜けることが出来ないと言うタイプ6の集団心理が働いているのではないかとも読めます。

また、日本と異なり韓国はPCR検査に急速に傾斜していきました。これもタイプ6の不安によるものではないかと思います。PCR検査は治療ではありません。また検査で陽性になったところで、新型コロナの治療法は特にないので安静にしておくしかありません。がん検診とは意味が違うのです。それでも検査をせずにはいられないのは、少しでも不安を解消したいという衝動に突き動かされた結果ではないでしょうか。日本でも検査数を増やし早期発見すべきだと言う論調がありましたが、これもタイプ6的な不安に抵抗する反応と考えられます。

エニアグラムでは健全度が落ちると別のタイプの悪い面が現れると考えられています。韓国では、タイプ6の健全度が落ちたタイプ3的側面が見られます。タイプ3に落ちると競争心が強くなり、自分がどんなに優れているか声高に表明するようになります。「日本より防疫に成功している」「K防疫は優秀だ」といっているのはこのような心理が働いているように見えます。

今、他の国より対策が成功していると信じたいので、あるデータを見ても他国の対策がうまく行っていないように解釈したり、とにかく自国の対策を称賛するネタをひねり出したりしたくなる心理が働きそうです。今後もし虚像を作り出すことに熱心になると、自国のありのままを見ることができず、有効な対策(感染症対策も経済対策も)を打ち出すことが出来なくなります。その場合は、新型コロナは韓国経済に長く、大きなマイナスの影響を与えることでしょう。

台湾のタイプ推察

今回の新型コロナではいち早く感染国からの入国管理を徹底し、最も防疫に成功した国となっています。これについては政治リーダーとブレーン、行政組織などが優秀だったということに尽きるでしょう。

一般の台湾国民はと言うと、日本の医療資源が乏しいと聞けば、防護服や雨合羽をかき集めて贈ってくれたりしました。これは親日国だからと言うわけではありません。台湾に帰化したイタリア出身の神父が祖国のイタリアへの支援を呼びかけたところ、6日間で1.5億台湾元(約5.4億円)の寄付金が集まる(自由時報2020年4月7日)など、日本以外に対しての支援も積極的に行われました。

日本による50年の統治を受け、終戦後も大陸から渡ってきた外省人に支配されてきた台湾は、嵐が過ぎ去るのをじっと待つタイプ9的な面があります。ですので今回の新型コロナも、政治が強力なリーダーシップを取っていなければ、時の流れに身を任せ、感染が蔓延しても一般国民はじっとおとなしく耐えてやり過ごしていた可能性があります。その結果、「そのうちなんとかなるさ」というタイプ9の楽天的な面や心のざわつきを抑えるために「その程度はたいした問題ではない」と問題を矮小化する悪癖が出てしまい、一番感染の影響から抜け出すのが遅れていたかもしれません。実際1月に湖北省などからの入国を禁止、2月には中国からの入国を禁止したのですが、国民からはそこまでしなくても大丈夫ではないかとの批判がありましたが、蔡英文総統はタイプ9的問題を小さく見積もる国民性を見越してか、批判を受けつつも入国禁止を断行しました。

タイプ6の日本では「自己申告ではスルーしてしまうではないか」「今すぐ入国禁止にしないと大変なことになるのではないのか?」などの不安が出るのと国民性の違いが見えてくる点だと思います。

タイプ9は心の葛藤を避けるため自己主張せず、他と一体化することで他とのつながりを感じようとします。他者の身になる能力が優れており、また自分を感じるよりも他者の立場になって物事を見ることを好むため、このような善意の行動を起こす原動力になっているものと思われます。そして見返りを期待していないこともタイプ9的な特徴です。

新型コロナの対策を担った陳建仁副総統(当時)、陳時中衛生福利部部長や唐鳳行政院政務委員などの閣僚も各自が優秀なだけではうまく回りません。各セクションで利害が対立することも多々あることでしょう。タイプ9的な対立軸を調整する能力が関係者の間でもプラスの方向で働いたため、建設的な対策をスピーディーに打ち出し、そして修整していけたのではないかと思います。

中国のタイプ推察

中国はタイプ8と言われています。タイプ8にとっては強さこそ正義です。負けは絶対に避けたいので勝てる勝負しかせず、負ける勝負はしません。「新型コロナ発生がわかっても、中国で止めれば一人負けになることがわかっていたから、「国外への移動をなかなか止めなかった」とか「新型コロナを利用して世界を牛耳ろうとしている」疑われるのは、周りが中国にタイプ8的な面を感じるからかもしれません。

弱いと思われることが他の国よりも相当なイメージダウンにつながるため、強さを力で示さなければいけません。「新型コロナウイルスを抑え込むことに成功した」とちょっと強引な発表を早い段階でせざるも得なかった事情は、他にもいろいろあるでしょうがこのような国民性にも関係していそうです。

春節の国内外の大移動も、日本のようなタイプ6の国では「もし人にうつして、村八分にされたらどうしよう」と思うので移動は控えますが、タイプ8の中国ではそのような感覚では考えません。自分のテリトリー(例えば宗族など)は体を張って守りますが、それ以外は迷惑をかけないようにしようなどの発想が働きにくいのです。

ただタイプ8は即決即断が可能です。タイプ6のように事前に「どうしよう?」と準備に時間をかけたりしません。行動しながら次の手を考えます。新型コロナのデータも多く持っています。失敗しながらも強力に進んでいくので、中国がワクチンを世界に先駆けて開発すると言うことが起きることもあり得ます。今必要なことは何かを考え行動に移していくので、この世界のピンチをチャンスに変える力を秘めています。それが世界にとって幸か不幸かはわかりませんが…。

タイプ6は安全を求める

タイプ6は「この世は安全ではなく、支えや導きがないと、自分のような弱い存在はとても生きていけない」という恐れを抱いています。大きな不安を抱えているため、安心できる安全な信頼できるものを自分の外側に求めます。それは会社という組織であったり、所属するコミュニティーであったり、権威者であったり、自分を守ってくれるものを得ることが重要だと考えています。

イメージとしては柵の中の羊です。柵の内側は安全で柵の外は危険がいっぱいなので、柵の外には絶対出たくありません。柵の外に追いやられないようにするためには集団の秩序に反してはいけません。集団の空気を読むことが重要になってきます。少数派にはなりたくないので多数派の意見に自分を合わせ、権威者の顔色もうかがいます。

柵の中の安全を保つために、柵の中の慣習を変えようとする人、異なった考えを持つ人、新しいことを持ち込む人、ルールを守らない人はチームワークを乱す危険人物と見なします。ストレスがかかり、余裕がなくなり精神レベルが落ちてくると、多数派を形成し、危険と見なした人物を村八分にしていきます。タイプ6がされると非常に恐怖を感じる「仲間はずれ」をすることで、危険と見なした人物に圧力を掛けるのです。

コロナストレス

タイプ6にとっては安全・安心が最重要課題で、安全・安心を脅かす状態はストレスがかかります。

新型コロナの感染拡大はタイプ6にとって非常にストレスがかかる状況です。しかもいつ誰から感染するかわからず、治療法も確立されていません。すでに立証された方法に頼りたいところですが、安全を確保するための対処法もわからず手探りで進むしかない状況です。どうやって安全を確保すれば良いのか、内心ちょっとしたパニック状態に陥るタイプ6も多かったはずです。非常に大きなストレスがかかり、健全度が落ちたタイプ6が多く発生し、その結果一部の日本人が問題行動に走ったのではないかと私は見ています。

タイプ6は柵の内側の秩序に従い、秩序を保とうとします。そのため異質なものを嫌います。異質なものが秩序に従ってくれなければ追い出そうとします。自分たちは努力して秩序を保ち、みんなが守られるよう配慮しているのに、なんのコストも負担せずにのうのうと柵の中にいるなんておかしいとなるのです。

それが営業している飲食店であったり、県外ナンバーの車であったり、マスクをしていない人であったりと、恐怖に突き動かされたタイプ6の攻撃対象になったのだと思います。

一方で罰則がないのに自粛できたり、強制されなくてもマスクを着用したり、海外から見ると日本人は不思議な民族に見えるようです。日本はタイプ6的な社会です。自分だけ他と異質なことはしたくない、異質なことをして村八分にされては困るという意識が働かせた方が生きやすい社会です。今回はこのような国民性がうまく機能したのでしょう。

根源的恐れの罠

タイプ6は安全を確保するために、安全を脅かすセキュリティーホールがないか目を光らせています。しかしゼロリスクの安全はなかなか存在しません。このような思考回路なので安全を確保したいのに、逆に不安を引き寄せてしまいます。健全度が高くないタイプ6は、不安を見つけ出すことで「世の中が安全ではない」という自分にとって不都合な信念を一生懸命守ろうとしているようにも見えます。

例えば、新型コロナのPCR検査陽性者数の増加を見て不安を増幅させることもこの影響と思われます。重症者数や死亡者数や検査件数など他の指標も見た上で判断すれば良いのですが、不安を増幅させる情報を無意識に選び取っているようにも思います。

ポピドンヨードやトイレットペーパーが売り切れるのも、不安があると往々にして解決に思えるものに飛びつくタイプ6の特徴を表しているのかも知れません。

これは食品安全についても同じようなことが起こっていると考えます。「○○は体に悪い」などの情報があり、「体に悪い証拠はない」とデータを示し反論しても、不安情報のほうがタイプ6には受け入れやすいでしょう。

前例や既知の手法

タイプ6は未知のことを解決する手法を見つけ出すことは苦手ですが、既知の確立された手法は安全ですので得意です。

震災では、こうしておいた方が良かった、こんなことが役立ったなどいろんな人が経験から様々な情報を出し合い、次に来る震災に備えます。1995年の阪神淡路大震災のときは阪神高速が倒壊しましたが、その時の教訓を元に耐震工事が進み、2004年の中越地震で高架の倒壊は起きませんでした。

今回の新型コロナは手探りで効果的な封じ込めの手法を見つけ出すことになります。多くの人が情報を出し合い、今までより一段と強固になったウイルス対策を獲得した日本になることと思います。

新型コロナ対策は一致団結して第2波以降も抑え込むことが出来ると予想されますが、これに伴う経済への打撃が懸念されます。景気は気からと言われます。残念ながら日本のタイプ6的マインドを考えると、不安にとらわれやすいので、他国と同じ経済対策を実施しても回復のスピードは遅くなりがちでしょう。

タイプ6は不安を感じやすく、依存心が強いことが特徴です。「何があっても最後は行政が面倒見ます。だから安心してください」といった強いメッセージを国民が受け取れなければ、回復のスピードは緩やかなものとなります。ここで言う安心とは将来の収入に対する心配や、移動することで感染を広げないだろうか、気を付けていてもうつってしまい不運なことに陽性となった時に非難されないだろうかなど、お金以外の不安も解消されるメッセージも含まれていなければなりません。

しかし、猜疑心が強いのもタイプ6の特徴です。国の言うことが本当だろうか、大臣はああ言っているが本当は何か隠しているのではないだろうかなど、依存することで安心を得たいと考えつつも同時に疑いを持ってしまいます。この2つの感情を振り子のように行き来することで、なかなか前に進めません。

不安情報のほうが日本人に受け入れやすいので、安全であると言う情報より不安をあおるような情報を発信したほうが共感、支持を得られます。もちろん懸念点は明らかにし、社会的議論を引き起こす必要がありますが、発生確率が低い、もしくは発生しても影響が少ない点の不安追求は日本社会全体を見ればマイナスとなってしまいます。それ以上に国などが安全であるという情報を発信しなければならないのですが、安全情報はタイプ6的な社会の日本ではハンディを背負っていますので共感、支持を得ることが難しくなっています。この点が、今後の日本の新型コロナの影響からの回復においてキーポイントとなることでしょう。

日本人のこの特徴は食品の安全・安心に関しても発揮されます。この心理的特徴をビジネスに利用してコアなファンを獲得している企業、団体もあり、マーケティングがうまくいっているところもあるように思います。

日本で企業活動する以上は、このような不安にとらわれる消費者心理から逃れることは出来ません。一般の食品企業は、ただただ真面目に責任を果たすために企業活動をされ、自信を持って安全である食品しか出荷していません。

参考文献

ダウンロード


CTA-IMAGE 一般社団法人 食品品質プロフェッショナルズでは様々な特典をご用意して、個人会員、事業者会員を募集中です。ぜひこの機会にご入会ください。 また無料メルマガもぜひご登録ください。

参考資料カテゴリの最新記事