一般社団法人 食品品質プロフェッショナルズ会員の高瀬波佐人が執筆した記事が、食品と科学 2016年6月号に掲載されました。月刊 食品と科学様の許可を得て、公開しております。
冒頭紹介
前稿までで、キッチンカー営業に関わる許認可の現状を述べてきた。本稿では実際にそれらの要求事項に対してどのように対応すればいいのか、また、このような状況で果たしてHACCPが現実的に機能していくものなのか考えていきたいと思う。
許認可に関わる要件は、HACCPを主体にした見方をすれば、PRP(食品安全確保の前提条件)の遵守である。つまり、「これを守れば食中毒は起こらないでしょう。だから事業者の皆さん、他のことは考えなくていいから、保健所の指導をちゃんと守ってね」といった感じである。ここでHACCPをよく理解した事業者が、原料から提供製品までの全てのハザードを分析し、ハザードの管理手段を策定し、PRPも保健所の指導どおりに行ったとする。そして、移動すし店を開店しようとしても、「おいおい、生ものはだめでしょう。許可条件にだめって書いてあるでしょ、え、HACCPで管理しているからOKじゃないのって? そんなの想定していませんよ」となるのである。まあ、これは極端な例ではあるが、HACCPという観念がなかった時代に、食品の安全性を確保するためには規制を厳しくするしかなかったのも事実である。
今現在の営業環境ではHACCP適用が現実的ではないので、PRPによる押さえ込み(そもそも危ないものは取り扱わせない、今までの要求事項に単に従わせることで安全を確保する)が必須であるのは言をまたない。しかしながら、この状況を放置しておくことが果たして得策なのであろうか? また放置しておけるものなのだろうか?
グローバルな環境に目を向けてみると、世の中はめまぐるしく変化している。大手の食品業界ではHACCPはもとより、GFSI承認規格認証取得が商売を行ううえでの必要条件になりつつあるし、それをどこまで拡張していくかが問題となってきている。加工食品以外では、和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、海外から和食だけを食べに来るような奇特なグルメ外国人も増えてきているはずである。日本の食文化の海外への移動は今後ますます活発になっていくであろう。
こういった見地からキッチンカー営業に目を戻すと、キッチンカーでの食品提供は食品の安全性を主体においた場合、新鮮な食材を新鮮なままいかに手早く調理し提供できるかにかかっていると言えると思う。これをHACCPで置き換えると、
新鮮な食材を → 原料のハザード分析実施後リスク管理された食材の調達
新鮮なまま → 原料保管のハザード分析実施後管理条件を設定、遵守
いかに手早く調理し → 調理過程のハザード分析実施後調理条件の確立、遵守
提供する → 顧客とのコミュニケーション、アレルゲン情報などの適切な提供
となるのではかなかろうか。
これらの実施は何も難しいことではなく、当たり前に考え、行われていることと思われる。しかしながらHACCPは人や物、場所が変わっても同じように食品の安全性が確立される仕組み作りであるため、ある程度のノウハウの文書化が必須となってくる。