Go Toトラベルが コロナ肺炎の感染拡大に影響しているとは言えない

Go Toトラベルが コロナ肺炎の感染拡大に影響しているとは言えない

一般社団法人 食品品質プロフェッショナルズ 代表理事 広田鉄磨

付録に引用している(未査読の)論文が タイミングよく 政府がGoToに関する政策転換を検討している時期にマスコミによって報道されるという事に ある意味合いを感じているのは私だけではないでしょう。

MEDRXIVに収載された原本
Association between Participation in Government Subsidy Program for Domestic Travel and Symptoms Indicative of COVID-19 Infection中にある表を参照しますと、

赤ペンでマーキングしたのが GoToトラベルのメリットを享受したもの、青ペンが Go Toトラベルのメリットを受けていないものです。P<0.05を境界値とするなら Go Toトラベル参加者は グループとしてみた場合 平均年齢が低く、学歴が高く、収入が高く、正規雇用率が高く、肥満傾向があり、慢性閉そく性肺疾患の割合が高い というかなり性格の異なる集団となっています。

そういった属性の異なる集団が 旅行の後に 有意に高い 発熱、咽頭痛、咳、頭痛、味覚異常・嗅覚異常を報告したからといって GoToトラベルの推進が その直接の原因であるといえるものでしょうか? 私自身は このデータをもとに それぞれの因子の寄与率計算はしていませんが 本来 GoToトラベル参加者と 非参加者の間のコロナ肺炎の症状の発生率を比較したいのであれば その他条件はすべて同じである群に調整して比較しなければ意味がありません

・・を食べさせたマウスの群と ・・を食べさせていないマウスの群の発がんに差異があると結論付けたいのであれば・・以外の条件をすべて固定して ・・投与以外はすべて 同質としないといけないのです。

百歩譲って 群の属性の差異は 統計的調整によって克服されているとしても 著者自身が付録の和文サイトで以下のようなコメントを残しています。

Go To トラベルの利用経験による有症率の違いは、65歳以上の高齢者よりも、65歳未満の非高齢者で顕著でした
15-64歳(非高齢者)と65-79歳(高齢者)で別々に分析を行ったところ、新型コロナを示唆する症状を呈する割合は非高齢者で顕著に高く、また、Go To トラベル利用の有無による新型コロナ症状を呈する割合の統計学的な有意差も、非高齢者のみに見られました。
現在日本で検討されている高齢者と基礎疾患のある人をGo Toトラベルの対象外とする方法が、新型コロナの感染拡大のコントロールにあまり有効ではない可能性が高いことを示唆しています
現在のGo To トラベルのやり方は新型コロナ感染リスクの高い集団にインセンティブを与える形となっており、感染者数の抑制のためには、対象者の設定や利用のルールなどについて検討することが期待されます。
Go To トラベルを利用した人と利用しなかった人では、年齢・性別・社会経済状況・健康状態のような背景が異なる事が考えられます。そのため、単純に比較すると、見かけ上感染リスクに差が出てしまう可能性もあります。
15-64歳(非高齢者)と65-79歳(高齢者)で別々に分析を行ったところ、新型コロナを示唆する症状を呈する割合は非高齢者で顕著に高く、また、Go To トラベル利用の有無による新型コロナ症状を呈する割合の統計学的な有意差も、非高齢者のみに見られました

全体を通して言えば 別に老人がGoToトラベルを利用したとしてもそれが感染率を高めるという事実はなく、それよりも若い人たちが GoToトラベルに乗っかって「危険行為」を行っていることのほうが強く示唆されます。GoToトラベルの対象者や用途を再考すべきではないか ということであって GoToトラベル廃止論を展開しているわけではありません。

一部のファクトチェックを標榜するグループが

比較した2つの群は、旅行以外の生活様式について、 以下の偏りが起こっているのではないかということです:
Go Toトラベル利用者 ⇒ 普通に外出している方が多い Go Toトラベル非利用者  ⇒ ほとんど外出していない巣ごもり状態の方が相当数いる。
すなわち、もし Go Toトラベル 非利用者の中に、 まったく外出をしていない巣ごもり状態の方々が相当数いるとすると、 最初から感染(発症)するはずのない方が含まれるので、 有症率が低くなるのは当たり前ということになります。

単なる推測だけをもとに 非利用者には巣ごもりが多いのではないか などという根拠のない前提条件を持ち出してきているのは的外れです。

こんなことよりも何よりも 「高齢者の移動を抑えるべき」と突然叫びだした小池都知事の恣意的な解釈に対して 引用されている論文を書いたその当の科学者自身が反論をしない・反論する機会を与えられていないという事のほうが メディアを読み取るリテラシー不足ならぬメディア側の真実を探ろうとするリテラシーの不足として 社会的な問題として取り上げられるべきものかと思います。

最近では マスクにはやはり効果あり と太鼓持ちのように騒ぎ出したマスコミに対して 当の論文の著者からは全く反論がなかったというのも よく似た事例と感じています


付録:

Go Toトラベル利用者の方が、新型コロナウイルス感染症を示唆する症状をより多く経験していることが明らかに – 医療政策学×医療経済学 (healthpolicyhealthecon.com)

自分の研究のご紹介日本の医療政策

Go Toトラベル利用者の方が、新型コロナウイルス感染症を示唆する症状をより多く経験していることが明らかに

投稿者: 津川 友介 投稿日: 2020/12/06

本論文はプレプリントであり、著者ら以外の専門家からの科学的検討(査読)はまだ受けておりません。しかし、政策上重要なテーマであるため、速報性を重視するために公開しております。

新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)が世界中で猛威を振るっており、日本でも冬を迎えて感染者数の再増加を経験しています。

新型コロナに感染することに対する恐怖および、感染拡大を防ぐために多くの国で行われている外出自粛要請や移動制限などの対策は経済に悪影響を与えており、多くの国で新型コロナの感染拡大を防ぎながら経済活動を活性化する方法を模索しています。

日本では飲食業や観光業を救済する目的で、2020年7月22日から国内旅行(Go Toトラベル)に対して、10月1日からは飲食店の利用(Go Toイート)に対して政府が補助金を出しています。飲食店の利用に対する補助金は、日本だけでなく英国などでも実施されています。

日本のGo To トラベル事業には11月末時点で2000億円の政府予算が投じられており、延べ4000万人が利用している世界的に見ても大規模な事業です。11月からの新型コロナ感染者数の増加を受けて、この事業が新型コロナの感染拡大を増悪させているのではないかと懸念されていました。しかし、Go To トラベル事業と新型コロナの感染リスクの関係性は十分に分かっていませんでした。

そこで今回、私達の研究チーム*は、GO TOトラベル利用者の新型コロナ感染リスクを明らかにするため、15−79歳を対象とした大規模なインターネット調査(2020年8月末〜9月末に実施)によって集められてデータの解析を行いました。

*宮脇敦士(東京大学大学院医学系研究科)、田淵貴大(大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部)、遠又靖丈(神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科)、津川友介(カリフォルニア大学ロサンゼルス校[UCLA]) によって構成される共同研究チーム。

GO TOトラベルの利用経験(過去1−2ヶ月以内の利用の有無)と、過去1ヶ月以内に新型コロナを示唆する5つの症状(①発熱、②咽頭痛、③咳、④頭痛、⑤嗅覚/味覚異常)を経験していた人の割合との関連を調べました

性別・年齢・社会経済状態・健康状態などの影響を統計的に取り除いた上で、Go To トラベルの利用経験のある人は、利用経験のない人に比べて、過去1ヶ月以内に発熱(Go Toトラベル利用者4.8% vs. 非利用者3.7%; オッズ比 1.9)、咽頭痛 (20.0% vs. 11.3%; オッズ比 2.1)、咳 (19.2% vs. 11.2%; オッズ比 2.0)、頭痛(29.4% vs. 25.5%; オッズ比 1.3)、嗅覚/味覚異常 (2.6% vs. 1.7%; オッズ比 2.0)を、より多く認めていたことがわかりました(図1)。

この結果は、Go To トラベル事業の利用者は非利用者よりも新型コロナに感染するリスクが高いことを示しており、Go To トラベル事業が新型コロナ感染拡大に寄与している可能性があることを示唆しています。

図1 Go To トラベル利用の有無別の新型コロナを示唆する5つの症状の有症率

性別・年齢・社会経済状態・健康状態で調整した値を表示。

年齢と基礎疾患の有無による層別化解析

また、年齢および基礎疾患の有無**で層別化した分析も行いました。その結果、Go To トラベルの利用経験による有症率の違いは、65歳以上の高齢者よりも、65歳未満の非高齢者で顕著でした(表1)。この結果は、高齢者の方が新型コロナ感染を恐れているため、たとえ旅行をしても慎重に行動し、その結果として感染リスクを増加させていなかった可能性を示唆しています。

**過体重・高血圧・糖尿病・心疾患・脳卒中・COPD・がんのうち少なくとも1つを持つか否か

一方で、基礎疾患の有無によって、Go Toトラベル利用と有症率との関係は変わりませんでした(表2)。

これらの結果は、現在日本で検討されている高齢者と基礎疾患のある人をGo Toトラベルの対象外とする方法が、新型コロナの感染拡大のコントロールにあまり有効ではない可能性が高いことを示唆しています。

表1 高齢者 vs 非高齢者で分けた分析

性別・年齢・社会経済状態・健康状態で調整した値を表示。P<0.05(太字):統計学的に有意

表2 基礎疾患なし vs 基礎疾患ありで分けた分析

性別・年齢・社会経済状態・健康状態で調整した値を表示。P<0.05(太字):統計学的に有意。

波及効果、今後の予定

本研究は、日本全国の大規模なデータを用いて、Go To トラベルの利用した経験のある人は利用経験のない人に比べて、発熱・咽頭痛・咳・頭痛・嗅覚/味覚異常を呈する割合が高いことを示しました。これらの症状、特に嗅覚/味覚異常は新型コロナを強く示唆する症状であり、Go To トラベルの利用者はより新型コロナに感染しているリスクが高いと考えられます。

このことは、Go To トラベル事業が、新型コロナ感染拡大に一定の影響がある可能性があることを示唆しています。現在のGo To トラベルのやり方は新型コロナ感染リスクの高い集団にインセンティブを与える形となっており、感染者数の抑制のためには、対象者の設定や利用のルールなどについて検討することが期待されます。今後の研究では、より厳密なGo To トラベルの影響の分析や他のGo To事業の感染への影響の調査を行い、どのような形のインセンティブ事業が感染拡大を防ぎながら経済活動を活性化させることができるか、必要な知見を明らかにする予定です。

本研究の限界点

本研究の限界としては、① Go To トラベルの利用が直接的に新型コロナ症状の増加につながったという因果関係は断定できない、② Go To トラベルの利用と新型コロナ症状の発生率との間の時系列的関係が不明、③ 新型コロナ症状を持つ人が、必ずしも新型コロナに感染しているわけではない、④ 新型コロナ症状を持つ人が、その原因としてGo To トラベルの利用を思い出しやすい可能性(思い出しバイアス)等が挙げられます。

本成果は、12月4日付けで、プレプリントサーバーmedRxivに公開されています(査読前原稿)。

<研究者のコメント>

今回の結果は、以下の2通りの解釈が可能です。

① Go To トラベル利用によって新型コロナ感染のリスクが増加した可能性 

② 新型コロナの感染リスクの高い人の方がより積極的にGo To トラベルを利用している可能性

①である場合、Go To トラベル事業そのものが新型コロナの感染拡大に寄与しているということになります。一方で②の場合はGo To トラベル事業は新型コロナの感染拡大の直接の原因ではないものの、新型コロナに感染しているリスクが高い人が移動していることを示唆しているので、その結果として間接的に新型コロナの感染拡大につながっている可能性があります。

今回の研究では、政策というマクロなレベルでGo Toトラベル事業が日本の新型コロナの感染者数の増加の主な原因であるかは分からないものの、個人レベルではGo Toトラベルを利用している人ほど新型コロナ感染リスクが高いことが明らかになりました。

新型コロナによるパンデミックは我々の健康および社会経済に未曾有の影響を与えており、有効なワクチンや治療法が利用可能になるまでは、感染拡大を抑制しながら、経済活動を活性化する必要があります。しかし、Go Toトラベルのような経済政策も、新型コロナの感染拡大を引き起こしてしまえば、ロックダウンのようなより厳しい追加的な対策が必要となることで、結果として経済により大きなダメージを与えることになってしまいます。

Go Toトラベルのような政策をより適切に行うためには、なるべく感染リスクの低い集団の経済活動を喚起するように制度設計すること(Go Toトラベル利用者は登録制にしてCOCOAなどの追跡システムを用いて感染拡大をコントロールする流行地発着の除外・感染伝播リスクの高い集団の利用を一時的に制限・感染伝播リスクの高い集団で旅行前のPCR検査の義務化など)が望ましいと考えます。

<2020年12月6日追記>

年齢、性別、所得水準、基礎疾患の有無など個人の特性だけでなく、居住地(都道府県)でも補正しています。つまり、同じ都道府県に住む人で、ToGoトラベル利用者と非利用者を比較したものが今回の研究になります。


1.背景

2020年11月末までに、新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)は全世界で6200万人が感染し、140万人が死亡しています。日本でも、感染者は15万人以上、死亡者は2000人以上にのぼります。

この未曾有のパンデミックに取り組むため、多くの国では、ロックダウン、移動制限、検疫、国境管理など、ウイルスの拡散を抑制するための公衆衛生対策を実施しており、今後も断続的に実施される可能性があります。これらの公衆衛生対策は、感染拡大に効果がある一方、経済には大きなマイナスの影響を与えています。

この影響を緩和するために、多くの国で、レストランの利用や旅行などの経済活動を金銭的なインセンティブを用いて促す介入が検討されています。しかし、このようなインセンティブ事業が新型コロナの流行にどのような影響を与えるのかは、十分なエビデンスがありません。

7月から我が国で始まったGo To トラベル事業は、世界的に見ても大規模なインセンティブ事業です。そこで、今回、この政策を例に取り、大規模なインターネット調査を用いて、Go To トラベルの利用経験がある人は、利用経験のない人に比べて、過去1ヶ月以内に新型コロナを示唆する症状(発熱・咽頭痛・咳・頭痛・嗅覚/味覚異常)を持つ割合が高いかどうかを調べました。

2.研究手法・成果

Go To トラベルを利用した人と利用しなかった人では、年齢・性別・社会経済状況・健康状態のような背景が異なる事が考えられます。そのため、単純に比較すると、見かけ上感染リスクに差が出てしまう可能性もあります。そこで私達は、できるだけGo To トラベルの利用自体のリスクを評価するために、これらの背景を、統計モデルを用いて揃えて(=統計学的調整)比較を行いました。

その結果、調査時点(=8月末〜9月末)でGo To トラベルの利用経験のある人は、利用経験のない人に比べて、過去1ヶ月以内に新型コロナを示唆する症状を呈する割合が、発熱では1.1%、咽頭痛では8.7%、咳では8.0%、頭痛では3.9%、嗅覚/味覚異常では0.9%高いことがわかりました。

また、15-64歳(非高齢者)と65-79歳(高齢者)で別々に分析を行ったところ、新型コロナを示唆する症状を呈する割合は非高齢者で顕著に高く、また、Go To トラベル利用の有無による新型コロナ症状を呈する割合の統計学的な有意差も、非高齢者のみに見られました。

3.研究プロジェクトについて

本研究は、東京大学大学院医学系研究科 宮脇敦士、大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部 田淵貴大、神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科 遠又靖丈、カリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) 津川友介の共同研究であり、The Japan “新型コロナ and Society” Internet Survey (JACSIS) 研究(研究代表者:田淵貴大 [大阪国際がんセンター])のデータを分析しました。

2020年8月末〜9月末にかけてインターネット調査会社を通じて行われたアンケート形式の質問表調査を用いています。この調査では、人口分布を考慮して全国からランダムに選ばれた15-79歳の28000人に対し、調査時点でのGo To トラベルの利用経験、過去1ヶ月以内の新型コロナを示唆する症状の有無を性・年齢・社会経済状態・健康状態と共に把握しています。

<論文タイトルと著者>

タイトル:Association between Participation in Government Subsidy Program for Domestic Travel and Symptoms Indicative of the COVID-19 Infection(GO TOトラベルの利用経験と新型コロナウイルス感染症を示唆する症状との関連について)

著  者:Atsushi Miyawaki, Takahiro Tabuchi, Yasutake Tomata, Yusuke Tsugawa.

プリプリントサイト: MedRxiv  

リンク:https://doi.org/10.1101/2020.12.03.20243352

<お問い合わせ先>

宮脇 敦士(みやわき あつし)
所属・職位 東京大学大学院医学系研究科・助教
E-mail: amiyawaki-tky@umin.ac.jp

田淵 貴大(たぶち たかひろ)
大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部・副部長
E-mail: tabuti-ta@mc.pref.osaka.jp


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