代表理事の広田鉄磨が執筆した記事が、食品と科学 2019年10月号に掲載されました。月刊 食品と科学様の許可を得て、公開しております。
冒頭紹介
前書き
厚生労働省のホームページ(HP)には2019年7月27日時点で44の「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理計画」手引書が並べられたが、このような数で日本の食品産業の多種多様な取扱品目を全てカバーできるものではないだろう。事業者の多くは、自分のやっていることにぴったりとあてはまるものが見つからないという感想を持っているのではないだろうか。たとえば豆腐屋であった場合、豆腐だけではなく油揚げもまた当然作っている。現在の豆腐向け手引書は、油揚げには全く触れていない。また、豆腐屋の多くは「おから」という総菜も製造していることが多い。この「おから」については、小規模な総菜工場向けの手引書を参照しろとでも言うのであろうか。豆腐の手引書と総菜の手引書には概念上のギャップが大きく融合させるのは困難、だからといって、同じ事業所の中でふたつの文書を並列で運用したらというのは、無理無体な提案でしかない。
手引書の内容についても、「帯に短し襷に長し」の感を逃れえないものが多いように感じる。また、HACCPの考え方を取り入れた・・・とはいいながら、本当の意味での危害要因分析はどこまでなされているのだろうか? その業種、その取扱品目であれば、そんなところに衛生管理計画を設営していくのはいかがなものか、費用対効果の観点からは無駄ではないかと常々感じているのは筆者だけではないだろう。最初はいやいややっていたとしても、1年もたたぬうちに形骸化してしまうような衛生管理計画であれば、最初からやらない方がましではないだろうか。
今回、大阪府の事業者の連合体から、ビジネスホテルにおける朝食バイキング向けの手引書を作成してくれないかとの依頼があり、現在すでに明白となっている欠陥を排除し、メリハリをつけて(つまり切り捨てるべきは大胆に切り捨て、集中すべきところに精力を集中し)、事業者にとって運用しやすいものを目指してみた。厚生労働省HPに掲載されている手引書の内容遵守が強調されたとしても、それは手引書のない業種での自発的な手引書編纂を排除するものではないだろう。将来は次女的にくみ上げた手引書を歓迎してくれるようになってくれるものと期待している。文書のタイトルは、あえて手順書として衛生管理計画の参考事例にたどり着くには、「手順を踏まないといけない」(つまり自分にとって起きうるリスクは何なのか、それは対処すべきなのか、保持できるのか、リスクマネジメントに沿った危害要因分析を実施しないといけない)その手順を踏んだ上にたどり着くのが衛生管理計画であって、ただただ衛生管理計画に最初から飛びつくようにと手引きする「手引書」ではないことの意思表示を行った。
食品と科学者のご厚意をもって、今回この手順書全文を掲載していただくという栄誉を得た。これをもって、この文書の真価を世に問えることを幸せに思う。
はじめに
ビジネスホテル業界では、宿泊と朝食が一体化したサービスが大きな売りとなり、朝食の良しあしが集客の勢いにも大きな影響を与えるようになってきました。体力・気力の回復を確保する「休息」の場としてのビジネスホテルへの期待感は当然のものとして、「活力の源」としての朝食に対する期待感もまた高まってきていることは言うまでもありません。
活力の源であるべき朝食が、その期待に反して、宿泊者の健康を害し、日常生活への障害を引き起こすことがあってはなりません。宿泊者は朝食の安全に関しては一点の疑いももたず、一日の始まりを美味しいものを食べた・健康にいいものを食べたという幸福感で満たすために朝食会場に現れてくるのです。
食品安全の確立のためには、HACCP(ハサップ)による衛生管理が必須といわれています。HACCPとは、食品安全・衛生管理に関する計画を立て、実践し、記録し、検証していく一連の工程のことを言います。このPDCAの積み上げで継続的に食品安全の向上をはかっていくわけです。
ビジネスホテルでの朝食提供におけるHACCPの絶対的な目標は、深刻な症状を引き起こすような食中毒を決して出さないということに尽きます。安全な食事を宿泊客に提供するために、これまで人類が積み上げてきた食品安全に関わる知識を総動員し、深刻な食中毒が発生することを防ぐことに傾注していきます。
とくに最近はアレルギーをもつ方々の割合が増えてきているので、いわゆる細菌・ウイルスによる食中毒以外にも、深刻なアレルギー症状、つまり通常アナフィラキシーショックといわれているものを起こさないようにという注意事項もこの手引書の中では強調されています。
この手順書作成にあたっては、厚生労働省のHPに収録されている「旅館・ホテルにおけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理手引書」(全国旅館ほてる生活衛生同業組合連合会編纂)を大いに参照させていただきました。非常に完成度の高い文書のため、一部の文章・図表はまったくそのままに近い形で引用しております。紙面を借りまして、お礼申し上げます。
つづきはこちらからダウンロード
後編はこちらから。